かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:クレンペラー、ロンドン・フィルの第九

今回の神奈川県立図書館ライブラリーは、クレンペラーロンドン・フィルの第九です。1960年7月の演奏です。

私としては久しぶりの「新しい第九の音源」ということになりました。まだご紹介してはいませんが、朝比奈隆/N響以来の第九となります。

本来、既に持っている曲は借りないというのが私の姿勢だったのですが、第九はやはりそういうわけにはいかなかった曲です。日本でも人気の曲だけあって、神奈川県立図書館にも数多くのライブラリがそろっています。

実にそのほとんどが、古い名演なのです。借りてはいませんが、トスカニーニも複数あります。その中から選んだのは、初期のステレオ録音です。まずはクレンペラーの登場です。

こういった名指揮者の演奏をこのエントリで取り上げることは少ないと思います。それは以前の私が過去の名演よりも近年の名演を探すという方針だったためで、決してクレンペラーのような指揮者の演奏が嫌いだったわけではありません。私の父がオーディオの技術者だったということもあり、最近の音質のいいもので名演になるものを探していたからです。

しかし、友人からモノラルでいい演奏を紹介してもらって、その考えは修正されました。確かに今でも以前からの方針は変わりありませんが、それにこだわることはなくなりました。そこで、いわゆる名指揮者の演奏で第九を聴いてみようと思い立ち、図書館で借りることとしたのです。

何せ、最近ではこういった古い録音のほうがCD店では探すことが難しくなっていますから・・・・・

この演奏は1960年7月14日にウィーンで演奏されています。残響と合唱団がウィーン楽友協会合唱団であることから、おそらくですが会場はムジークフェライン(楽友協会大ホール)だと想像しています。ただ、オケは本当にロンドン・フィルなのかどうか・・・・・

というのも、実は同年5月から6月にかけてのウィーン芸術週間に、クレンペラーはフィルハーモニアで第九を演奏して、録音を残しているからです。

クレンペラーベートーヴェン・ライヴ
http://www.hmv.co.jp/news/article/1012140093/

上記HMVのサイトで紹介されている全集の5枚目が第九ですが、そのソリストと全く同じなのです。ただ、録音月日が翌月になっていること、そして海外では指揮者が自分の好きなソリストで演奏するのは別に不思議ではないこと、そして当時のクレンペラーの名声から考えれば、ロンドン・フィルである可能性はかなり高いと言えるでしょう。

オットー・クレンペラー
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%A9%E3%83%BC

さて、オケがどちらであるにせよ、この演奏は素晴らしいものです。アンサンブルと出だし、そしてアインザッツすべてにおいて完璧に近い演奏です。第3楽章以降はオケが多少突っ込み気味になりますがそれを常にたしなめている様子が音だけでもわかってきて、こちらが熱くなってきます。

つまり、オケがだんだん熱くなってきているのが分かるからです。それをクレンペラーが必死に冷静さを保つようたしなめているからなのです。つまり、私が常々述べています「情熱と冷静の間」が絶妙な演奏なのです。

極めつけは第4楽章で、まず合唱導入部でソプラノ抜きというのは素晴らしいです。最近はどうしてもこの部分でソプラノを入れてしまうことが多いのですが、楽譜には実はソプラノパートはありません。ソプラノはその次の合唱部分で初めて参加するのです。

実はこういった点で第九は保守的な音楽なのです。革新的な音楽でもありますが同時に保守的な部分も存在する音楽です。皆様、私が常々取り上げているバッハの時代、アルトはどのパートが歌っていたでしょうか?そう、カウンターテナーです。つまりは、男性です。アルトは男性でも代用が出来るというわけですね、極端な話。しかし、ソプラノの音域はさすがに女性でないと出ません。

この点こそ、第九の実は保守的な部分であって、この点に注目する向きは少ないように思います。なぜベートーヴェンは初めからソプラノを使わないのか・・・・・この考察をしますと長くなりますので、この辺で今回は終りにしておきましょう。ソプラノを入れるのは最近の傾向であるとだけ申し上げておきます。しかし、楽譜には書かれていませんよ、と。

クレンペラーはあくまでもその点では楽譜に忠実です。もちろん、細部ではいろいろやっているのは聴いていてもわかりますが、楽譜に本来ないはずのパートを加えるということは決してやっていません。この点、やはり時代だなあと感じます。

そして、第4楽章のvor Gott!の部分。クレンペラーはその前の二部音符のテンポで振りながら、その2倍の遅さで歌わせています。これに気が付いたときにはうおー!すごいことをやっている!と驚きを隠せませんでした。一見しますと変態演奏のように見えますが実に学究的なアプローチをかけています。しかしこれは歌う方としては指揮を見ていませんと崩壊します^^;

こういった部分はさすがマーラーからカペルマイスターのお墨付きを得て世に出た指揮者だなあと感じます。それにきちんとついてゆくオケとウィーン楽友協会合唱団。私はその合唱団に注目せざるを得ません。vor Gott!の部分もそうですが、常に子音をはじき出す発音など、さすがドイツ語圏だなと思います。これがアメリカですと日本とそんなに変わらなくなります。いや、今では日本の合唱団のほうがきちんと子音をはじき出しているように思います(たとえそれがアマチュアであっても!)。

なぜ子音をはじき出すことにこだわるかと言えば、当然ですがドイツ語などのヨーロッパの言語に音が付く場合、それは母音につきます。当然ですがリズムも母音に支配されるわけですね。ですから子音ははじき出さないとリズムが作れないわけなのです。この点に注目しますと、実は今まで名演とされてきたものは必ずしもそうではない点もあることに気が付かされ、「なぜそれは名演なのか」と自分で考えるようになりますから、第九を聴く場合(いや、本当はすべての声楽曲を聴く場合ですが)に注目されることをお奨めします。

その点で、私はこの演奏を「名演」と断言したいと思います。



聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱つき」
ヴィルマ・リップ(ソプラノ)
ウルスラ・ベーゼ(メゾ・ソプラノ)
フィルツ・ヴンダーリッヒ(テノール
フランツ・クラス(バス)
ウィーン楽友協会合唱団
オットー・クレンペラー指揮
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団



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