かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:バーンスタイン 交響曲第1番「エレミア」・第2番「不安の時代」

今回の今月のお買いものは、バーンスタイン交響曲第1番と第2番。指揮者は作曲者本人であるレナード・バーンスタイン。オケはイスラエル・フィルです。

この一枚はいろんな面白い点が詰まっている一枚で、音楽的なことから政治的なことまでいろんな点を気づかせてくれるのですが、一応音楽的なことに絞りましょう。

バーンスタインが作曲もやっているということは、ウエストサイド物語の作曲でよく知られていると思いますが、では、交響曲は?と言いますと、あまりよく知られていないと言わざるを得ません。かくいう私でさえ、さる方に教えていただかなければ全く知らなかったくらいです。

以前、「友人提供音源」のコーナーで第2番「不安の時代」は取り上げていますが、そこで私は「第1番を聴いてみないと判断できない」と書きました。このCDはその念願をかなえたものです。

さて、その第1番は彼の父にささげられていますが、それに惑わされてはいけないような気がします。ウィキペディアではさらりとした説明しかないのですし、私が買ってきたものは輸入盤なので(横浜の輸入CD店で購入)、説明は英語なので詳しいバックボーンまでは述べることが出来かねるのですが、どう考えても彼の出自、つまりユダヤ人という側面を考えざるを得ない曲です。

特に、この曲が作曲された、1939年から1942年という時期は、ナチスによってホロコーストが行われてきた時期に当たりますので、その点もかなり反映されているように私には聴こえます。そもそも、構造的に見ても動機はヘブライ式の聖書詠唱の旋律ですし、その上終楽章の独唱部分の歌詞はエレミアの哀歌からとられているという徹底ぶりです。ユダヤ人迫害を念頭に置きつつ、それを前面に出さないために父の名を使った献呈にしたということが予想されます。

その上で注目なのは、3楽章でかつそれは連続して演奏されるという、まるでロココの「シンフォニア」です。しかし音楽はジャズや現代音楽などが入り混じった独特のもので、それでいてメロディラインが結構はっきりとしている作品です。第2番よりはずっとロマン派に近い感じですね。

しかし、もともとこの曲が無名時代に作曲されているということは驚きですね。これだけの曲を、当時のアメリカですら評価できなかったというわけです。私たちは20世紀といいますと前衛音楽の時代と考えてしまいますが、しかしその時代の人たちは、意外にもにも古典的だったというわけです。そういえば、サン=サーンスなどもそんな評価を受けてますね。かれほど古典的な人もあの時代いなかったんですが・・・・・

まあ、この手のものというのは、やはりある程度時間が経たないと、正当な評価はされないようで、現地アメリカでも最近ようやくバーンスタインの音楽の再評価が進んでいるようです。

さて、お次は第2番「不安の時代」です。これはもろに現代音楽です。もともと英国の詩人、W・H・オーデンによる詩『不安の時代』に触発されて作曲されたもので、第二次世界大戦末期のニューヨークで暮らす4人の人間の孤独を描いたものです。戦争のせいなのかそれとも違うのか、孤独な人間を描くという、今度はリアルなものを題材に持ってきたといえます。この演奏は以前聴いたものがありますが、それと比較しますとそれほど前衛的ではないんですね。

この2曲ともそれは共通しているんですが、バーンスタイン本人はそれほど前衛音楽として作曲していないのかもしれません。確かに演奏的には前衛的にできるのでしょうが、少なくともこの演奏ではそれはあまり前面に押し出されていません。もうすこし緩やかな感じに抑えられています。

構造的に6楽章二つに分かれそれぞれが連続して演奏され、さらにはピアノ協奏曲であるという側面すら持つものですが、もしかするとバーンスタインはもっとべつな点を念頭に入れて作曲した可能性もあるような気がします。たとえば、同じ構造はスクリャービンシマノフスキに認められますし、特にシマノフスキは時代が近いだけ、もしかするとこれもかなり政治的な関心を芸術へと昇華させた結果の作品なのかもしれません。標題からはそんな点はみじんも感じられませんが、どう考えてもそのあたりを想像せざるを得ません。

各標題からも政治的な点は認められませんが、当時のポーランドはいったいどんな状態だったかを考えますと、バーンスタインが本当に表現したかったのは、いったいどんなことなのだろうかと想像が膨らみます。オーディンの詩の原文はいったいどのようなものなのでしょうか?

この演奏を聴きますと一層その思いは膨らんできます。少なくとも、先人のいろんな作品を念頭に置いているのは間違いないと思います。2部に分けるというのもサン=サーンスの「オルガン付」を彷彿とさせます。

これにはもう一つ、チチェスター詩編が収められていてそれがオープニングの形をとっているのですが、これがまたいろんな時代の音楽が鳴って、興味がつかない作品です。ボーイソプラノを使うという点がかなりこの曲を引き立てています。

バーンスタインのイメージががらりと変わること請け合いです。



聴いているCD
レナード・バーンスタイン作曲
チチェスター詩編
交響曲第1番「エレミア」
交響曲第2番「不安の時代」
ウィーン少年合唱団員(ボーイソプラノ
ウィーン・ジェネス合唱団
クリスタ・ルートヴィッヒ(メゾソプラノ
ルーカス・フォス(ピアノ)
レナード・バーンスタイン指揮
イスラエルフィルハーモニー管弦楽団
(ドイツ・グラモフォン 457 757-2)