今回の神奈川県立図書館所蔵CDのコーナーは、モーツァルトのピアノ協奏曲モダン演奏シリーズの第10弾になります。今回はブレンデルの旧盤から、第24番と第25番をご紹介します。
実際は「モーツァルト全集」に入っているものなのですが、できればピアノ協奏曲だけでも分売を望みます。それだけクオリティは高いですし、何よりもブレンデルのカデンツァが特徴なのです。
私はこの二つはブレンデルのほかの演奏も持っています。第24番は第20番とカップリングされているマッケラス/スコットランド室内管弦楽団とのもの(つまり、新盤です)。第25番は友人からいただいたFM音源のもので、ラトル/ウィーン・フィルとのものです。それと比較しますととても面白いです。
ブレンデルという人はあまりカデンツァを変えない人なのだなあと思います。もちろん、ほかのピアニストは知りませんが、ブレンデルは少なくとも第20番、第24番、第25番の3曲に関しましてはほとんどカデンツァを変えていません。
第20番から第25番まではモーツァルトによるカデンツァが残されていないため(発見されていないだけかもしれませんが)、演奏する側が「作曲」しないといけないため、ピアニストによって曲が変わるのがこの5曲のコンチェルトの特徴です。ですので、どんなカデンツァが聴けるのだろうというわくわく感と同時に、好きな演奏が自分の美意識にピタッとはまってしまうと、それ以外が聴きにくいという欠点も抱えています。
モーツァルトの第20番から第27番までのピアノ協奏曲は特にすばらしいものなのですが、その点だけは注意して聴く必要があります。ですから、どうしてもこの5曲に関してはカデンツァに触れることになるのです。
このCDの2曲に関しましては、私が持っているほかの演奏と比べて、オケ、指揮者ともそれほど違いを出しているわけではありません。しいて言えば、アカデミー管は若干温かい音色を出していまして、第20番以上に暗い第24番に一筋の光を当てています。ただ、私は徹頭徹尾暗いスコットランドのほうが好きなのですが・・・・・どうやら、ブレンデルも同じ考えのようですね。そのあたりの音色は若干なのですが、変わっています。
しかし、カデンツァはほとんど変わっていません。変わった点といえば、すっきりしたということ、でしょうか。ほとんど同じなのですが、新しい演奏と比較しますと、この旧盤のカデンツァはややごちゃごちゃしています。確かに、そこまでモーツァルトはやったかなあという感じはします。その点は、新盤で「修正」されているように思います。
旧盤では、明らかにカデンツァなのですが、新盤ではカデンツァとアインガング(ちょっとした独奏のこと)の中間くらいになっています。その上で、間をおくようにしてきちんとしたカデンツァに仕立て上げています。
カデンツァでは私は新しいほうが好きですね。そういう意味で、ブレンデルが新盤しか許可していないのかもしれません。でも、それならば新盤で全部そろえたいなあと思います。輸入盤でもいいので、出ませんかねえ。
この旧盤も、とても素晴らしいです。彼のカデンツァの変遷をみるうえでも、なぜ今新しい演奏を彼が再び収録しようとしたのかが、この旧盤から垣間見えるように思えるのです。
聴いている音源
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲
ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491
ピアノ協奏曲第25番ハ長調K.503
アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)
サー・ネヴィル・マリナー指揮
聖マーティン・イン・ザ・フィールズ教会アカデミー(アカデミー室内管弦楽団)