かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今日の一枚:ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」・シューベルト 交響曲第8番「未完成」

さて、モーツァルトのミサ曲シリーズが終わったところで、久しぶりに「今日の一枚」行ってみようと思います。

今日は、マイミクさんからいただいたCDです。今回と次回の2回にわたって、そのいただいたCDを取上げたいと思います。いやあ、私は金銭を支払うと述べたのですが、ご本人は結構ですとのこと。本当にありがたいお話しです(実際、今月はかなり財政がきついので、助かりました)。

で、収録曲はゴールデンカップリングで、ベートーヴェンの「運命」とシューベルトの「未完成」です。指揮は近衛秀麿、オケは読売日本交響楽団です。このコンビもまた国内ではゴールデンコンビですね。特に第九では名盤とも言われています。その、「運命」と「未完成」のアルバムです。

録音は1960年代なのに、まず運命の第一楽章で主題提示部の繰り返しが収録されているのには驚きます。それでいて、たたたたーんの二分音符のフェルマータも充分伸ばしていますし、テンポもかっちりとしています。ある意味、まさしく昔風の解釈ですが、私にはそれがとても心地いいです。逆に、現在のかなり駆け足で、フェルマータを伸ばさない解釈が好きな人にはちょっといやな演奏かもしれません。

ただ、私はここで充分伸ばしてくれないといやなので、近衛さんの解釈はとても好感持てます。運命はこの部分でかなり好きな演奏が別れますね。

第2楽章もゆったりとしていて、それが堂々たる演奏へとつながっています。充分オケを鳴らし、テンポの揺れもない。とても聴きやすい演奏です。まあ、ともすれば特に特徴がない演奏でもあるわけなのですが、しかし端正なその内容はじんわりと感動を誘ってきます。金管がとても高貴さを醸し出しています。ベートーヴェンは意外と金管を粗末にはできない作曲家です。勿論、ほかの楽器もそうですが、意外と金管に大事な部分を任せたりしているので、気が抜けませんね。

第3楽章は、私は単独では捉えられない楽章です。どうしても第4楽章と関連付けて聴いてしまいます。それは、ここでベートーヴェンとしては初めて、楽章をつなげているからです。mp3へリッピングする時には泣き所ですねー。しかも、この二つの楽章は本当に分かつことができないので、どうしても私も一緒のものとして語ってしまいます。

さて、その第4楽章に先立つ第3楽章ですが、低音をこれもまた充分に鳴らし、またテンポも急がず、しかし堂々と音楽を奏でています。このあたり、本当に60年代の日本のオケか?と思ってしまいます。残念ながら、繰り返しはこの楽章ではありませんでしたが・・・・・まあ、それはさすがに仕方ないでしょう。確か、ここをきちんと繰り返すことを楽譜に反映させたのはペータース版だったはずで、当時はまだ出版されていませんでしたから。

しかししかし、来ますよ、第4楽章が。低音部分であるティンパニの鳴らし方もすばらしいです。そして・・・・・

第4楽章!トランペットのファンファーレ。私はいつもここで涙します。この演奏はそこでためがあります。そして、ゆったりとしたテンポを維持したまま、アインザッツを強めにすることで曲に勢いをつけています。このあたりの解釈はさすがですね。ここを聴きましても、この演奏、本当に60年代の日本?って思ってしまいます。繰り返しはないですが、しかしテンポも急ぎすぎず、オケのアンサンブルを重視した重厚な演奏です。それでも、心に熱いものが湧き上がってくるのを抑えることができません。

主題展開部の木管から、ふたたび主題再現部のファンファーレへ移る場面でも、ためをつくり歌ってくれています。もう、ここで今私は泣いています・・・・・

そして、怒涛のごとくコーダへ。しかし、ここでも急がず、しかし熱い心を持って演奏させています。最後まで緊張感をもった、すばらしい演奏です。

シューベルトの「未完成」は、これも正統なゆったりとしたテンポ。まず第1楽章ですが、アンサンブルが整っています。主題提示部での金管が余韻を残して伸ばす部分がありますが、そこもさすがプロオケで、アマであればここでよく崩壊するのですが、60年代の日本でありながら崩壊することはまったくありません。余韻を楽しむことができます。シューベルト独特の哀愁を帯びた音楽をゆったりと鳴らしています。うーん、もう寝てしまいそうなくらい気持ちいい・・・・・本当に。つまらないからではなく、とても心地いいのです。

このあたり、ウィーンの正統派に連なる近衛さんらしい指揮ですね。さすが藤家(藤原摂関家)の末裔。いい教育を受けていますね。さらに評価したいのは、それにきちんと答える読売日響。なかなか、当時の日本でここまで答えるオケはなかったと思います。すばらしいですね。

低音部分、特にコントラバスやチェロを充分に鳴らしています。ですので、それほど時代を感じることがありません。

第2楽章もゆったりと、しかもホルンがやさしく、まるで遠くで鳴っているように鳴らすその指揮は、もううっとりです。それまで哀愁に包まれていたホールに、いつの間にか晴れやかな青空が広がっています。そんな音楽を聴かせてくれます。ここでも涙してしまいそう・・・・・

シューベルトはともすれば、その歌謡性で評価が低いこともある作曲家ですが、確かに交響曲の構造的な美しさは多少ないかもしれませんが、その音の一つ一つのせつなさや哀愁といった部分の、まるで壊れそうなほど美しい部分は、私はとても評価したいと思うのです。交響曲でそういう音楽をかける人はそうはいません。だからこそ、彼の交響曲は名曲の誉れ高いのですから。私も、彼の音楽の豊穣さがとても聴いていて心地いいです。

交響曲もそうですが、例えばミサ曲やピアノ五重奏曲などといったジャンルでは、彼の本領が発揮されていますね。この「未完成」は確かに未完成ですが、そういったジャンルの曲を想起させるのに充分です。普通、クラシックファンですとなかなか宗教曲は聴かないという人も多いのですが、彼の曲は宗教曲をはじめとする、ほかのジャンルが聴きたいという気にさせる部分が多々あるように思います。彼の音楽は、淡々としている中にこそ聴き所があるのですから。

この二つの曲は、近衛さんの音楽性にとてもあっている曲ではないかと思います。いいところしかない、なんてそうそうあることではありません。どこか何か残念な部分があるのが普通なのですが、このCDではアインザッツでそれが多少感じられる程度で、それはほとんど気になりません。聴いていて、しあわせな気分になる、とても豊かな演奏です。


聴いているCD
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第5番ハ短調作品67「運命」
フランツ・シューベルト作曲
交響曲第8番ロ短調D.759「未完成」※CDが旧表記であるため、それにならっています。
近衛秀麿指揮
読売日本交響楽団
(PLATZ PLCC-740)