さて、ベートーヴェンの弦四シリーズは今回が最後になります。え、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は16曲じゃないの?と仰る、ア・ナ・タ。その通りです。番号がついているものは確かに16曲です。しかしながら、編曲されたものがあるのです。
かつて、私はピアノソナタ第9番で、編曲された弦楽四重奏曲、弦楽四重奏曲ヘ長調Hess34に触れました。そして、CDをいつか手に入れたいこと、それは結構かかると思うので、気長に待ってくださいと申し上げました。
ところが、いとも簡単に手に入ってしまいました。しかも、値段1050円で。それが、先日第14番でご紹介したスメタナ四重奏団の演奏だったのです。もともと、このCDを買った理由は、スメタナ四重奏団だったと言うこともありますが、それより何より、カップリングがピアノソナタ第9番の編曲である弦楽四重奏曲だったからです。
スメタナ四重奏団の弦四全曲シリーズは廉価版で再販されており、各盤1050円で売られています。それは知っていましたし、貧乏なのでもともとそれで集めていました。しかし、そのシリーズにまさか欲しいピアノソナタの編曲が入っているとは思いもしませんでした。
そして、この弦楽四重奏曲はベートーヴェンが唯一編曲したものです。後にも先にもありません。理由は良くわかっていません。たっての理由だそうなのですが。ただ、当時ピアノソナタから弦楽四重奏曲への編曲がはやっていたそうです。しかし、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲への編曲がこれひとつだけと言うのが、またベートーヴェンを楽聖と呼んでしまうひとつの原因なのでしょうね。世の流れに簡単に乗らないところ、何となくベートーヴェンらしい部分ではあります。
原曲、ピアノソナタ第9番はホ長調なので、移調しています。これは弦楽四重奏曲にしたためでしょう。今回は、弦楽四重奏曲とピアノソナタを聴き比べています。弦楽四重奏曲はスメタナ四重奏団、ピアノソナタは山根弥生子さんです。弦四のほうはとても温かく、ピアノソナタはさわやかな感じです。初めて聴いたときもまったく同じ感想でした。第3楽章の細かい部分は違いがあるものの、ほとんど一緒なのに移調するだけでこれだけ違うのかと感じます。
こういう編曲を聴く楽しさと言うのは、その曲の真髄に迫ることにあります。その曲がいかに名曲なのかということが簡単に理解できる格好の教材です。だれでも簡単に理解できると言う点で、当時編曲がはやった理由も何となく理解することができます。しかも、それがなぜ室内楽だったのかもです。
考えて見ましょう。現在の私たちなら、弦楽アンサンブルよりピアノのほうが簡単だと考えます。それは19世紀でも同じことで、第九の編曲をリストやワーグナーが行っています(ワーグナーの物については、いつか取上げたいと思っています)。しかし、ベートーヴェンはそのピアノから弦楽アンサンブルへの編曲なのです。
一方で、ベートーヴェンは交響曲も弦楽アンサンブルへ編曲しています。それは交響曲第4番が対象で、これは弦楽四重奏曲ではなく、ピアノ三重奏曲へ編曲しています。ピアノ三重奏曲もおいおい集めて行きたいと思っているジャンルのひとつでして、それに編曲物があることを知ったのは、さんよう氏のコミュ「クラシック同時鑑賞会」でした。
とにかく、ベートーヴェンの編曲能力は見事です。さわやかなピアノソナタが一変して温かい曲になるのです。このあたりはすばらしいと感じると同時に、ベートーヴェンにとって弦楽四重奏曲が他人との関係を表すという視点から見ますと、そういう温かみを加味する編曲と言うものに彼が弦楽四重奏曲に対してどのような考え方をもっていたかがこの編曲でも良くわかるように思います。
といいつつ、その視点で考えますとびっくりしますのは、その編曲自体がまだ作品番号がついた弦楽四重奏曲がひとつも作曲されていない時期なのです。これはまるでブルックナーの交響曲00番のような関係です。
勿論、もともとピアノソナタですので、きちんとした弦楽四重奏曲の形になっていません。しかし、その後に成立します作品18群を彷彿とさせます。
この演奏がスメタナであるために温かく聴こえるのかもしれませんが、とにかくピアノソナタのさわやかな感じから一転、全曲を通して温かみあふれる曲になっていて、交響曲では味わえない、人間ベートーヴェンを垣間見ることができます。
聴いているCD
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
弦楽四重奏曲第14番・弦楽四重奏曲ヘ長調Hess34
スメタナ四重奏団
(COCO-70682)