音楽雑記帳は、音楽に関するいろんな話題をとにかくごった煮で私が述べるコーナーなんですが、今回から、コンサート評はタイトルの最後に必ず「雑感」の文字を入れることにしました。
で、今回述べますのは、6月21日にめぐろパーシモンホール小ホールで聴きました、葛西賀子さん、チェコ紀子さん(両名フルート)、瀬川玄さん(ピアノ)3人による「フルート・デュオ・コンサート」です。
実は、このコンサートに行きましたのはmixiにおけるマイミクさんが出演していることと、その演目の一部がバッハ一家であるということが理由でした。
演目は、以下の通りです。
C.Ph.E.バッハ
・トリオソナタ ハ長調
W.F.バッハ
・トリオソナタ イ短調
F.ドップラー
・アンダンテとロンド 作品25
J.S.バッハ
・トリオソナタ ト長調
F.&K.ドップラー(ドップラー兄弟)
・ブラヴーラのワルツ作品33
F.&K.ドップラー(ドップラー兄弟)
・プラハの思い出作品24
と、デュオと銘打っていますが、曲のラインナップから、実際にはトリオのコンサートです。
全体的に、ピアノとフルートの絶妙なアンサンブルが印象に残りました。特に、フルートはすばらしいアンサンブルとアインザッツを聴かせてくれました。息が文字通りぴったりなんですね。
速いパッセージの部分でどうしても指が動きにくい部分が出てきてしまいますが、そこを二人同じように演奏している点を見ますと、綿密にどう演奏するのか組み立てられていると思いました。
うーん、こういうところは楽譜を見ながらだと面白いかもな〜と思いました。どれだけスコアリーディングをお互いで行って、そのすりあわせをやられて本番に臨まれたのか、その様子さえ想像できそうなくらいです。
葛西さんはかなり動き回る感じで、チェコさんはどちらかというとあまり動かないで演奏されるタイプ。印象としては、積極的に突っ込む葛西さんを、チェコさんが冷静にさせながら、全体的には瀬川さんがコントロールしている、と感じました。
さて、まず大バッハの二男、カール・フィリップの作品ですが、これが本当にバロックらしいというか、父親のように流れる作品です。まあ、それゆえに影に隠れてしまっている作曲家でもありますが・・・・・・
それを、瀬川さんは淡々とピアノ伴奏をされるんですね。瀬川さんはベートーヴェンのピアノソナタ全曲のリサイタルをやられたくらいの方なのですが、淡々と伴奏されるんです。その姿勢に脱帽しました。あくまでもフルートのデュオを立てますし、実際、聴いていてもフルートがメロディを担当し、ピアノは通奏低音という感じを覚えました。
だからこそ、これは楽譜ありのほうが面白かったな〜、と。
恐らく、これは次の長男もそうだと思いますが、初演時は恐らくチェンバロだったと思うんですね。だからこそ楽譜があれば面白かったな〜と思います。読める読めないは別として、構成などを見ながら、3人のアンサンブルを聴くのは楽しいと思います。フルートも息がぴったりですし。
2曲目の長男ヴィルヘルム・フリーデマンですが、これは瀬川さんのライヴ解説でも触れられましたが、長男の苦悩が詰め込まれているなあと思いました。
実は、これは彼が行っている「クラシック音楽道場」において、あらかじめレクチャーがあった話なのですが、この曲は第2楽章において、ピアノの左手がファーストフルートが吹く旋律を2倍遅い速度で演奏するという、奇抜なことをやってのけています。
通常であれば、聴いているとおかしくなると思います。実際、私も残念ながら途中からおかしくなって追いかけ切れませんでしたToT
なぜなら、メロディーはすでに次の和声へいっていて、それを耳で聞いているのに、ピアノはいつまでもその前のメロディーを弾いていますが、それが速度が違うので、どうしても何を弾いているのか頭が混乱してくるからです。
なのに、一端ピアノの和声を聞くのをあきらめ、単に耳を傾けるだけにしますと、とたんに音楽がとても高貴にかつ厳しく流れているのに気がつくのです。
ちょっとこれこりすぎだろーって思いました。確かに、音楽としてはすばらしいですし、独創性もあります。終わりそうで終わらず、本来終止する部分で終止せず、そのまま続けるなど・・・・・きりがありません。ただ、それゆえに、一生懸命偉大な父を超えようとする点がクローズアップされてきます。
これ、実は私も長男なのでちょっと共感できる点が・・・・・私の父も、日本の外貨準備高をオープンリールで稼ぎ出した設計技師でした。ただ、私は幸せだったと思うのは、父と同じ道に進まなかったことだと思っています。
ですので、フリーデマンはどんなに苦しかっただろうと思いますと、他人事に思えません。何か、私に演奏している3人を通じてヴィルヘルムが訴えかけてきている気がしました。
演奏はそれだけにすばらしいものでした。リズムを気にして全体的にコントロールするピアノ、フルート二人のまるで一人であるかのようなアンサンブル・・・・・・だからこそ、フリーデマンの「遺志」を私は感じ取ったのかもしれないと思います。これだけ書くだけ特にこの曲が印象に残りました。
で、では他の曲は?といいますと、ドップラー兄弟もすばらしく、ピアノはどの曲も甘くかつ平易なメロディで入るのですが、フルートはどれも超絶技巧。それも、二人の息が合っていますし、それをピアノが絶妙にコントロールしていきます。
特に、大バッハではそれが前面に出る場面がありまして、第3楽章から第4楽章へ移るとき、ピアノがフルートよりわずかだけ残響を響かせ、ここで一端切って次に移りますと合図しているんですね。これはさすがだと思いました。全てそこでタイミングを合わせて切る、というのも一つのやり方だと思いますが、ピアノが二人をうまくコントロールしているなと思いました。熱すぎず、冷めすぎず・・・・・
その大バッハは、今度はフルートが甘美です。第1楽章冒頭、一方のフルートが一音を長く伸ばして維持しつつ、もう一方のフルートはメロディを奏でる・・・・・それを、通奏低音であるピアノが単にリズムを刻むだけでなく、かなり表現がつけられたものを刻んでゆく・・・・・それが織り成す、高貴な世界!
それゆえに、熱くなりやすい曲でもあると思いますので、第3楽章でのピアノの切り方はさすがだなあと思いました。勿論、3人がいっせいに切っていっせいにはじめられれば、もっとすばらしいですが・・・・・
トリオは管弦楽を中心に今まで聴いてきた私にとって新たな発見の連続なんですが、今回もそんな発見がたくさん出来た上に、かなりレヴェルの高いアンサンブルを聞かせていただいたように思います。