今日の一枚は、ベートーヴェンの弦四です。毎度おなじみのスメタナ四重奏団の演奏です。
この3曲はベートーヴェンの弦四でも初期の作品18のうちの3曲なわけですが、このあたりはアルバン・ベルクとそれほど差があるわけではありません。ただ、アインザッツをことさら強調しない点は一緒で、それがまた温かい曲調を表現しています。
でも、厳しい場面ではきちんとアインザッツも強調されており、メリハリが利いています。
そういう意味では、すばらしい反面、どうしてもベートーヴェンの近寄りがたいイメージそのものという感じのアルバン・ベルク盤に比べますと、はるかに人懐っこさがあります。その上で厳しさや高貴さも忘れない演奏は、やはり名盤と言われるにふさわしいと思います。
作品18の中で唯一の短調である第4番。その第一楽章はとても厳しい音楽なのですが、しかし転調部分ではとても温かい長調になり、その点をどのように演奏するのかが聴き所です。第5番はモーツァルトの弦楽四重奏曲第18番との関係を言われますが、実際は第3楽章はそれ以前のバロックに範をとったような楽章で、ベートーヴェンの個性が出ていますが、そこをどのように演奏するのかがポイントかと思います。
第6番は第一楽章のアンサンブルが聴き所。低弦がリズムを刻み、ヴァイオリンがメロディを奏でるわけですが、そのバランスがすばらしいです。また、テンポもよく、ソナタ形式がとても美しいです。このあたりは私はどちらの演奏もよく気を配っているなと思いました。
兎に角、ベートーヴェンの作品は細部まで気を配りませんとどこかで破綻します。まあ、それはなにもベートーヴェンに限ったことではないんですけどね。特にベートーヴェンは意識しないと、モーツァルトと共にきちんと演奏できませんね。
こういう味のある演奏を聴くというのは、まったく他のジャンルを演奏するにしても大事な点で、私は合唱団入っていたときには特に心がけていました。アマチュアでも、それを意識するのとしないのとではまったく仕上がりが違うのです。
まず、自分自身の演奏技術の向上にとても強い影響をおよぼします。さらに、曲が持つ精神性を汲み取ることへの助けにもなります。それが、おのずと自分の演奏にも出るものなのです。
最近は合唱団にも入っていませんからそんな必要はないだろうと考えがちですが、ところがどうして、そんなことは微塵もありません。演奏者はその人生をかけているのですから、そこから得られる精神性はどんなジャンルでも共通するものです。
自分自身の人生を考える上でも、とても大事だと最近思っています。作曲者だけでなく、演奏者にも人生があります。そして、私にもある。背負っている看板や歴史もある。それは共通するものですよね?
アルバン・ベルクの強い精神性の高い演奏も、自分自身の心を強く持つために重要ですし、またスメタナの心温まる演奏も、自分自身を追い詰めないためにも重要だと思っています。
私は、人生において混迷しているこの時期に、このような演奏にめぐり合ったことに感謝したいと思っています。それがいまどれだけ私を救っているか、わかりません。
聴いているCD
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
弦楽四重奏曲第4番・第5番・第6番
スメタナ四重奏団
(DENON COCO-70677)