コンサート雑感、今回は令和7(2025)年10月26日に聴きに行きました、世田谷フィルハーモニー管弦楽団さんの第65回定期演奏会のレビューです。
世田谷フィルハーモニー管弦楽団さんは東京のアマチュアオーケストラです。何と創立に芥川也寸志が関わっているという団体で、また世田谷区の支援も受けていると言う、アマチュアオーケストラでもかなり稀有な存在です。
新しい団体を聞きに行くというのは予定と予算の都合上なかなかしんどくなってはいますが、その中で今回世田谷フィルハーモニー管弦楽団の演奏会に足を運んだ理由は、指揮者が新田ユリさんだったからです。世田谷フィルハーモニー管弦楽団さんには音楽監督がいらっしゃいますが、今回はあえて新田さんを招聘したようです。私もこの演奏会を知ったのは新田ユリさんのFacebookのページででした。勿論新田さんとは初顔合わせ。理由は述べられていませんがおそらく選曲が理由だと思います。今回は北欧特集でかつメインがシベリウスの交響曲第2番。新田ユリさんと言えば日本におけるシベリウス音楽のオーソリティの一人で、日本シベリウス協会の第3代会長でありかつ日本・フィンランド新音楽協会の代表でもあります。
そもそもなんで新田ユリさんだと言って足を運んだのかと言えば、新田ユリさんは私にとってはベートーヴェンの第九を始めて歌った時の練習指導者のひとりだからで、最近Facebookで再会したところです。元々実家が世田谷だったそうで、縁がある方だそうです。私も人生の最初は世田谷区民だったので、世田谷という土地にはシンパシーがあります。
世田谷フィルハーモニー管弦楽団さんの本拠はどうやら昭和女子大学人見記念講堂のようで、今回も人見記念講堂が会場でした。私としてはかなり久しぶりの人見記念講堂です。ある会合でそのお隣の建物は最近行ったことがありますが人見記念講堂はかなりご無沙汰です。以前は海外オケなどの公演でも使われていましたが最近は都内に優れた音響のホールが多くありますのでクラシックのコンサートもそれほどあるわけではないように思います。まあそもそも昭和女子大のホールですから大学の施設ですが・・・だからこそ、世田谷区が絡んでいないとなかなか使わせてもらえないということになります(フェスタ・サマーミューザでも会場が洗足学園大学前田ホールだったり昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワだったりしますがあれも川崎市が絡んでいるからこそ使わせてもらえるのであって通常は学内優先でアマチュアオーケストラはおろか一般の人も使うことはできません)。
さて、ここからは新田先生と記載させていただきます。新田先生のタクトはようやく最近では教鞭を執っていらっしゃる桐朋学園大学のオーケストラの演奏を聴きに行っていますが、その時のメインはシベリウスではありませんでした。1プロと2プロがシベリウスでした。
このコンサートの後、新田先生が音楽監督を務められているアイノラ交響楽団さんの演奏会にも足を運ぼうと思いましたが他とバッティングしたため実現できず、さらにほかもなかなか日程や予算の都合上実現せず、今回ようやくまた実現したことになります。
今回はすでに述べましたがメインをシベリウスにした北欧特集。いずれも新田先生がオーソリティと言って差支えない作曲家です。
①グリーグ 序曲「秋に」
②グリーグ ピアノ協奏曲
③シベリウス 交響曲第2番
特に協奏曲はアマチュアのレベルを計るバロメーターでもあり、満を持して新田先生にお願いをしたとみてよさそうです。
①グリーグ 序曲「秋に」
グリーグの序曲「秋に」は、1865年に作曲された演奏会用序曲です。
原曲は歌曲ですので、とても歌謡的であるのですが飾り気のない素朴さもあるため、歌いすぎないようにすることが肝要だと思いますがそのあたりの演奏が絶妙!そもそも市民オケなのにやせた弦の音も聞こえてきません。いやあレベルの高さをいきなり見せつけます。新田先生が振られているからもあるとは思いますがそもそもそれなりの高いレベルが無いと表現が難しい曲だと判断できるので、もうびっくりです。
オーケストラのレベルが上がってくると歌いたくなると思いますしそれが自然でいいことではあるのですが、一方で歌いすぎて興ざめというリスクもあります。そのあたりのバランスがとてもいいんです。それでいて力強さもあります。新田先生の指示に応えることができるだけの実力がないと難しいと思います。音楽監督は井田勝大さんですが井田さんもしっかりと指導されているのだろうなあと思います。また各パートにしっかりと指導者もついており、この辺りは大学オケなみ。さすが世田谷区が支援しているだけあると思います。見ていて新田先生が楽しそうにタクトを振っているんですよね~。オーケストラの反応がいいのでつい楽しくなっていたのだと思います。そもそも楽しい曲と言うのもあると思いますがやはりオーケストラの実力の高さを新田先生が楽しんでいるという構図でした。
②グリーグ ピアノ協奏曲
グリーグのピアノ協奏曲は、1868年に作曲されたグリーグ唯一の協奏曲です。
有名な曲であるからこそアマチュアにとってはプレッシャーがかかるはずですが、しかしオーケスラは伸び伸び演奏しているんです。ピアニストは秋場敬浩さん。これもまた表現豊かなピアノだと思うのですがもう少し歌いたいのを我慢しているように聴こえました。実はテンポは多少速め。なのでそこまでじっくりと歌わずに指揮者と息を合わせようとしているのが聴き取れます。その分、目立った失敗が聴こえてきません。この辺りは10月5日に聴きに行った京都シンフォニカさんとは異なっていました。やはりアイコンタクトやお互い様子を見ながら音を聞きながら演奏することがプロでもあっても協奏曲に於いては大事であると感じます。
その視点で言えばまさにオーケストラにも同じ姿勢が要求されるのですが、その点も世田谷フィルハーモニー管弦楽団さんはばっちりなんです。このピアノ協奏曲では思い切り歌っていますし実際歌う曲です。ですがテンポは速めなので歌いすぎてもいけないのでそのさじ加減が重要なのですがそのさじ加減もばっちり。まさに協奏曲の演奏とはこれであると言っていいと思います。ただ、テンポの揺らし方はちょっと私の美意識とは異なるのですが・・・
ですがそれでも説得力のある演奏になっているのはさすが。第3楽章まで来るともう喜びで自分が満たされているのに気が付かされます。幸せだなあ・・・若きグリーグの情熱が迸る曲でピアニストも指揮者もその迸る情熱を表現しようとしており、その情熱にオーケストラも答えていくという相乗効果でこちらもその情熱によって魂が満たされていきます。何と素晴らしい演奏であることか・・・
テンポの揺らし方では私の美意識とは異なる点があるとしても、やはりアマチュアオーケストラではレベルの高い演奏は素晴らしいです。最後ブラヴォウ!も飛んだのは当然でした。しかも、残響が終った後にという非常にマナーのいいブラヴォウで、拍手も残響が終ったあと。聴衆のマナーもいいです。一度プロオケで文句を言っている人は世田谷フィルハーモニー管弦楽団さんの演奏会に足を運んでみればいいと思います。
ソリストのアンコールはチャイコフスキーの「四季」から。しっかりと歌うピアノなので、指揮者に合わせたのだなと思いますが、対話を重ねてもっと自分の揺らし方を貫いたらもっといい演奏だったと思います。この辺りはアマチュアオーケストラの定期演奏会って直前でしかソリストとは合わせられないので難しいかとは思いますが・・・実力は本当に高いので一度ソロの演奏が聴いてみたいと思います。
③シベリウス 交響曲第2番
シベリウスの交響曲第2番は、1901年に完成した作品で、シベリウスの作品の中ではフィンランディアと並んで人気の高い曲となっています。
シベリウスの交響曲は他の作品も優れているのですが、やはりオーケストラとしてはシベリウスのオーソリティである新田先生のタクトとなると人気がある第2番でということになったのかもしれません。とはいえ、私の中では意外と第2番は難しい曲という印象なのです。特に第4楽章なのですが・・・
第1楽章はゆったりとした美しい景色という感じで演奏に於いて表現は楽だと思いますが、第2楽章になると一転陰鬱な雰囲気に。それでいて鋭い音楽もありますのでそのあたりのメリハリも大変。ですが難なくこなす上に音もまた強い!金管は咆哮とも言っていいくらい。
ただ、金管全体に言えるのですが、多少抑えて演奏するところで多少不安定。ここで頭をよぎるのが、今年2月に聴きに行った、オーケストラ・ダスビダーニャの演奏会。ブックレットにはトレーナーで団員でもあるトカレフ先生に「失敗してもいいから美しく吹くようにとの指示があり、実行しました」というもの。特にトランペットもトロンボーンも唇を震わせて吹きますので難しいのですよね。そのうえで息もコントロールしなければならないわけで・・・なかなか難しいとは思いますが、ここで美しく安定した音が出ると、もう感涙ものです。そこはアマチュアオーケストラらしいと言えますし唯一アマチュアオーケストラらしい部分だと言えます。ですがそれがフォルティシモになると安定した強烈な音がホールで飛んでくるのですから・・・
第3楽章もリズムは難しいところですが必死に食らいつきます。そしてアタッカで第4楽章。ここも美しく歌謡性のある旋律が支配しますが所々強烈な音が要求される部分もあります。その部分の音の強烈さは半端じゃあありません!まさに音が飛んでくるという表現が適切です。シベリウスはこの曲に政治的意図はないと言っていますが、頭のどこかに当時の政治状況に想いを馳せていたのではないかと思われる部分もたくさんあります。確かにテーマとしては政治が取り上げられているとは言えませんが、しかしどこか政治状況によるシベリウスの内面が反映されているようにも思えます。
ですがそれを超越した喜びが表現されているのが第4楽章でもあります。とくにそれが反映されているのが強烈なフォルティシモと最後フィナーレへと向かっていくフレージングの長いクレッシェンドです。オスティナートの形でありかつクレッシェンドしていく旋律はともすれば冗長になりがちなのですが、今回は全く冗長ではなくむしろ感情がどんどん高ぶっていくのが手に取るようにわかるため時間を忘れるくらいの惹きつける魅力に満ちたものでした。この辺りはさすがシベリウスのオーソリティである新田先生の手腕を感じます。最近海外の録音でもそのような素晴らしい演奏がどんどん出ていますがそれを日本でアマチュアオーケストラの演奏で楽しめるとは!
この曲でも、最後残響を味わった後で万雷の拍手とブラヴォウ!が飛びました。皆さん感動で打ち震えているはずなのに本当にマナーがいいです。さらに言えば昭和女子大学人見記念講堂はそもそも大学の講堂なので残響時間はそれほど長くはないどちらかと言えばデッドなホール。なのに最後まで音を味わってから拍手とブラヴォウ!が飛ぶのは聴衆も素晴らしいです。
世田谷フィルハーモニー管弦楽団さんはすでに高いレベルに達している団体であると言っていいでしょう。次は来年2月にオペラ合唱曲のガラコンサート、そして6月に第66回を予定しておりベートーヴェンとマーラーの4番というこれまた渋い選曲。次は音楽監督の井田さんがタクトを振られるそうで、その演奏も楽しみです。私としては魅力あるオーケストラがまた一つ増えてうれしい悲鳴を上げております。ついでに言えば新田先生も来る12月20日に杉並公会堂大ホールでまたタクトを振られるとのことで、これも嬉しい悲鳴で、実は多団体と迷っております・・・新田先生、運が良ければまたお会いしたく存じます。っていうか今度はアイノラさんの演奏に足を運びたいとは思っております・・・
聴いて来たコンサート
世田谷フィルハーモニー管弦楽団第65回定期演奏会
エドゥアルド・グリーグ作曲
序曲「秋に」作品11
ピアノ協奏曲イ短調作品16
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲
「四季」より秋の歌(ソリストアンコール)
ジャン・シベリウス作曲
交響曲第2番ニ長調作品43
秋場敬浩(ピアノ)
新田ユリ指揮
世田谷フィルハーモニー管弦楽団
令和7(2025)年10月26日、東京、世田谷、昭和女子大学人見記念講堂
地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。