東京の図書館から、3回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、メンデルスゾーンの交響曲全集、今回はその最終回の第3回目、第3集を取り上げます。収録曲は交響曲第4番「イタリア」と第5番「宗教改革」の2つです。
①交響曲第4番「イタリア」
交響曲第4番「イタリア」は、1831~1833年にかけて作曲された作品です。ちょうどイタリア旅行と重なっており、その旅行からインスピレーションを得て成立した作品です。第4楽章にはイタリアの「サルタレッロ」が使われてはいるものの、標題音楽にはなっていません。
第1楽章は明るい曲で生き生きとしたものになっていることから、明らかにイタリアの明るい空や社会の印象を、自分のフィルターでろ過したうえでアウトプットしたものと捉えるべき作品です。それは第2楽章以降も変わらないと個人的には考えます。標題音楽ではないですがしかしベートーヴェンの交響曲第6番を意識した作品だとは言えるでしょう。
その特徴をどうとらえて、自分たちの音楽にするかが大事なのですが、そのあたりこの演奏は秀逸。全体的に引き締まった演奏になっているにもかかわらず、急いでいるような印象もなく、しかしそこに自分がいてイタリアの空気や人のぬくもりを感じるかのような演奏になっているんです。いやあ、ネゼ=セガンやるなあ。
また引き締まった演奏になっているのは、オーケストラがヨーロッパ室内管弦楽団であるという点も大きいと思います。室内管弦楽団はその編成からどうしてもフルオーケストラに比べれば小さいがため、各人の役割が大きくなりますがそれがいい方向に行っています。各パートがしっかりと聞き取れる上で躍動しているのもわかるため余計演奏は生き生きと感じます。第3楽章はメヌエットと古風な様式が選択されていますがそれをうまくロマン派の味付けにしているところも粋で冗長に感じません。少なくとも私が聴いた中では上位に来る演奏です。この辺り、まだ日本では遅れている印象はありますね。勿論室内管弦楽団がないわけではありませんが、まだフルオーケストラのネームヴァリューが大きいように思います。そのあたりはむしろアマチュアオーケストラのほうが先を言っているような印象はありますね。
②交響曲第5番「宗教改革」
交響曲第5番「宗教改革」は、1830年に作曲された作品で、アウグスブルクの信仰告白300年を記念して作曲されました。その意味では第2番「讃歌」と似ているとも言えます。個人的には第2番と第5番は関連がある作品だと思っています。
祝祭感もある作品ですが、何といっても最終楽章にコラール「神はわがやぐら」とドイツの讃美歌「ドレスデン・アーメン」が使われていることが特徴です。そこからしても、私はどこかベートーヴェンの交響曲第9番を想起せざるを得ないのです。ここでは合唱は入っていませんがその合唱を入れるのに成功したのが第2番だとすると、自然なのです。なおメンデルスゾーンの交響曲における番号は出版順で成立順ではないため、第5番が先に成立し第2番はその後となっています。
私がそう考える理由は、第5番の改訂をメンデルスゾーンが最後までかけてやっており、かつ納得せず破棄しようとしていたというエピソードです。器楽のみなのであればもうある程度完成していると言っていいはずですが、それでも納得しなかったのは、恐らくベートーヴェンの交響曲第9番が念頭にあったからではないかと推理しています。1830年と言えば、ベートーヴェンの交響曲第9番の初演からわずか6年です。刺激を受けたとしても不思議ではありません。
そういう背景がある作品ですので、演奏はどこかで力が入りかねない危険性をはらんでいますが、この演奏では第1楽章冒頭ファンファーレも力強くはありますが壮麗かつ軽め。その後に始まる第1主題は多少重めですがそれでもくどくありません。
最終楽章でコラールが始まる場面も、本当に軽い音なのに荘厳さが伝わってくるんです。いやあ、私が聴いた演奏の中ではトップクラスですね。メンデルスゾーンが生きた時代、そしてこの第5番が成立した時代のオーケストラを考える時、室内管弦楽団のほうが適切に表現できるのかもという気もします。
勿論フルオーケストラでも、曲によって編成は変わるので小さい編成を経験していないわけではありませんが、どうしてもいつもの大人数を意識はしてしまいますし、またレコーディングディレクターがフルオーケストラを意識した編集を行うこともあるので、私たちはフルオーケストラの演奏で物事を判断しがちですが、メンデルスゾーンが生きた時代を考えて比較的小さい編成の演奏を聴くことで作品の魂が見えて来ることはあると思います。その視点を持った演奏であると言えるでしょう。
その視点で言えば、この全集は全ての曲で満足のいく演奏が楽しめたのは、まさにヨーロッパ室内管弦楽団だったからこそだと言えるでしょう。そしてそのオーケストラのポテンシャルを引き出したネゼ=セガンの高い能力も評価されるべきでしょう。メンデルスゾーンの交響曲が5つしかないとはいえ、その全ての演奏が満足できることなんて全集で滅多にありません。それをやってしまうこのコンビのすばらしさと能力の高さ・・・この資料を揃えた府中市立図書館の司書さんの仕事ぶりに敬意を表すると共に、この全集ももっと高い評価受けるべきでしょう。
聴いている音源
フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディ作曲
交響曲第4番イ長調作品90「イタリア」
交響曲第5番ニ短調作品107「宗教改革」
ヤニック・ネゼ=セガン指揮
ヨーロッパ室内管弦楽団
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