東京の図書館から、2回に渡り取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、ヴァ―ツラフ・スメターチェク指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団他による、カール・オルフの「勝利三部作」を収録したアルバム、今回はその第2回目です。「勝利三部作」の内、カトゥーリ・カルミナと「アフロディーテの勝利」の演奏を取り上げます。
このアルバムは2枚組で、この2曲はその2枚目に収録されています。とはいえ、実は「カトゥーリ・カルミナ」の内第1曲だけは1枚目に収録されています。このエントリでは便宜上、2枚目と一緒にご紹介します。二つを一緒に聴きますと、演奏時間は1時間17分・・・そりゃあ、「カトゥーリ・カルミナ」の第1曲目だけを1枚目にせざるを得ないでしょう、CDだと・・・その意味では、この「勝利三部作」こそ、現代のDLもしくはストリーミングサービスで聴くべき作品だと言えます。
その理由は、以前私が上げたエントリで言及している通り、この「勝利三部作」には一つのストーリーがあり、恋愛や性行為から結婚へと至る道を示しているからです。そのうえで、性行為を排除せず至高のものとすら捉えている作品です。
ゆえに、個人的にはそれぞれを単独で聴くよりは、一緒に聴いた方がいいと思っています。すでにケーゲルのがあるにもかかわらず、このスメターチェク指揮のを借りてきたのも、この三部作は一所に聴くべきだと考えているが故です。しかも、この三部作を収録したアルバムは、意外と西側のオーケストラでは少ないのです(少なくとも私は認識をしていません)。
全体的に生き生きとした演奏にはなっていますが、私としてはケーゲルのほうが好きかな、という気がします。演技しつつ、人間の内面、欲望というものがしっかりと表現されているのはケーゲルの方だからです。
だからと言って、このスメターチェク指揮のがダメというわけではありません。実はこの演奏、いろんなブログでカトゥーリ・カルミナの歌詞をテーマにしているエントリで紹介されている録音なので有名な演奏ですし、確かに生命力ある演奏ではあるのですが、より素晴らしいのは私としてはケーゲルの方です。さすがにまだスメターチェクが若かったかなという気もします・・・ちなみに録音は、「アフロディーテの勝利」が1963年、「カトゥーリ・カルミナ」が1965年です。とはいえ、スメターチェクも50代ですが・・・
ある意味、その50代という年齢が、多少若々しさというか、性(セックス)に対して保守的になっているかなあ、という気がします。テンポは速めですが、この2つ、「カトゥーリ・カルミナ」と「アフロディーテの勝利」に関しては、テンポが速ければいいというものではなく、むしろリズム重視で音を立てるというほうがより適切だと感じます。それはオルフがリトミックや演劇など、体の動きというものを重視していたからですが、個人的にはそれはオルフなりのバロック・リスペクト、ひいては祖国の巨匠、ヨハン・セバスティアン・バッハへのリスペクトだと感じています。その点でも、もっとリズムを協調し、音を立たせてもよかったになあと思うのです。ですが齢50となると、さすがに老いを感じるところで、性に対してどこか距離を取ろうとしてしまいます。そこが演奏に際し障害になったかなあという気がします。
その点では、むしろこの21世紀に入ってからの録音も聴きたいところですが、「カルミナ・ブラーナ」だともう選ぶのが大変なほどありますし実際私も飯森範親指揮のを持っています。ですがそれ以外の「カトゥーリ・カルミナ」と「アフロディーテの勝利」となるとさっぱりです。三部作をまとめたアルバムが待たれるところですね。
最近世界も保守的になっているせいか、なかなかこの「三部作」を演奏し、アルバムを出そうという試みは実現できていないようです。ですがこの混迷した時代だからこそ、性(セックス)と結婚という関係性を振り返り、考えるきっかけにするためにも、新しい録音も必要なのではないかという気がしてます。勿論、このスメターチェク指揮の演奏も現代でも十分耐えうる演奏ではありますが、現代ならもっと表現できるのになあと思うと、残念なんです。
ちなみに、この2枚目はオーケストラはプラハ交響楽団に変わっています。生きの良さという点では、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団よりもプラハ交響楽団のほうがよくは聴こえますが、たまたまだと思います。オーケストラが変わったのは、恐らく「カトゥーリ・カルミナ」の変則的な編成があると考えています。その変則的な編成に応じたのが、プラハ交響楽団だったのだろうなあという気がします。また、このアルバムも一応当時のチェコスロヴァキア社会主義人民共和国のプロパガンダもあったと考えれば、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団だけではく他にも素晴らしいオーケストラがあるということを紹介したかったということもあるでしょう。今ではチェコ・フィルハーモニー管弦楽団だけでなくプラハ交響楽団も素晴らしいオーケストラであることは広く知られていますが、1960年あたりはそれほどでもなかったはずですし。
ただ、この演奏ではそのプラハ交響楽団が、リズムを重視した演奏にしっかりと応じ、作品の魂を掬い取ることに成功しています。その連続性を持った「アフロディーテの勝利」でもそれは引き続いており、生命力あふれる演奏を楽しむことができます。合唱団とソリストも、この2枚目の2曲では、歌うことに囚われず、まるで舞台演劇のようにふるまっているのも魅力的。ケーゲル版には劣るとはいえ、やはり東欧の合唱団の、ノンビブラート発声による歌唱は、素朴さと妖しさも同居し、人間の魂の躍動が伝わってきます。そのうえで時々聴こえるビブラート発声もアクセントになっており、西欧のビブラート発声のみよりも豊かな世界が広がっています。この点も、いまだに愛される演奏である理由の一つでしょう。
ですが、今は21世紀。できるだけ早く、この録音を乗り越える演奏、そしてアルバムが出ることを期待します。
聴いている音源
カール・オルフ作曲
カトゥーリ・カルミナ
アフロディテの勝利
ヘレナ・タッテルムスホヴァ―(ソプラノ)
イヴォ・ジーテク(テノール)
マルタ・ボハーチョヴァ―(ソプラノ)
オルドルジヒ・リンダウアー(テノール)
カレル・ベルマン(バス)
チェコ・フィルハーモニー合唱団(合唱指揮:ヨゼフ・ヴェセルカ)
ヴァ―ツラフ・スメターチェク指揮
プラハ交響楽団
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