コンサート雑感、今回は令和7(2025)年9月13日に聴きに行きました、TGY合唱団さんの第11回演奏会のレビューです。
TGY合唱団さんは、東京のアマチュア合唱団です。テノール歌手であり指導者でもある山本義人さんを団長として設立された団体です。
創立が2008年なので、17年の歴史を持つということになります。ここまでにもクラシックの大曲や日本の合唱曲も歌ってきている団体です。私はチラシを確か5月にもらったと思いますが、その時からずっと気になっていた団体で、今回足を運んだ次第です。それにしても9月は合唱もいろんな団体の演奏会がありまして本当に悩んだのですが、決め手はプログラムでした。
今回のプログラムは以下の通りです。
①ブラームス 運命の歌
②ブラームス 哀悼の歌
③モーツァルト レクイエム
ブラームスの二つの曲は合唱をやっている人だと知っている名曲ですが、クラシックファンの中では知名度はいまいち低い作品です。この二つは私の中では傑作と捉えており、また「運命の歌」は私自身歌ったことがある作品でもあったため、今回TGY合唱団さんを選択した次第です。またモーツァルトのレクイエムも団の実力が出やすい曲でもあり、どんな演奏になるのだろうかと興味を持ったのも選んだ理由の一つです。
なお、今回はアンコールはありませんでした。
①ブラームス 運命の歌
ブラームスの「運命の歌」は、1868~71年にかけて作曲され、1871年に初演された、管弦楽と混声合唱のための作品です。ドイツの詩人ヘルダーリンの詩に曲を付けたものです。
ブラームスはアマチュア向けの合唱曲も数多く書いた作曲家ですが、この曲は見た目とは異なり、アマチュアにとってはとても難しい曲の一つです。旋律は簡単なように見えても、高音部で極めて弱いppなどもあり、ふんわりとした雰囲気を出すのがとても難しい作品です。私も歌ったことがありますが、第1部が本当に大変で、美しいppで表現するのにとても苦労した作品の一つです。声というのは人間の息でもありますが、その息をどうコントロールするかが重要な作品で、実はとても高いレベルの歌唱力が要求される作品です。というかブラームスってそんな曲ばかり書くのですよね・・・
その実体験があったからこそ、アマチュアでこの曲を歌うのか!と興味をもったわけでした。というか日本ではこの曲がプロで歌われることが少ないのが・・・少なくとも日本のアマチュア合唱団にはそれだけのチャレンジ精神は十分あります。
さて、今回の演奏ですが、その弱音の部分では多少音が強いと感じました。ホールは晴海の第一生命ホール。比較的大きなホールではありますが、とはいえミューザ川崎や東京芸術劇場に比べますと大きくはなく、アマチュアが思い切った表現ができるホールだと思います。もう少し冒険してもよかったかなという印象はあります。私が歌った時は本当に第1部を徹底的に練習したのですが、それはアマチュアが最も不得手とする、弱音の表現が求められるからだったのです。
その観点で言えば、今回のTGYさんは完全に「逃げていた」と言えるでしょう。ただそれはしょうがない部分もあります。私の時は実は「運命の歌」だけだったのですが、今回はそのほかに2つも歌うわけで・・・練習が追い付かないという点もあったのでは?と思います。私の母校日大三高野球部元監督の小倉さんの合言葉は「練習は嘘をつかない」ですが、これはアマチュア合唱団でも一緒です(実際宮前フィルハーモニー合唱団「飛翔」の音楽監督だった亡くなられた守谷弘も同じことを言っていたため合唱指揮の遠藤先生には徹底的に練習させられました)。とはいえ、練習時間は限られているわけですから、優先順位を付けざるを得ません。高校球児のように無限に練習できるわけでもないので・・・そのため、なるべく失敗しない、それほど弱くはないppを表現として選んだのだと思います。この辺りは指揮者と音楽監督、指導者が一緒ということが有利に働いたと言えましょう。
アンサンブルは素晴らしいですしソプラノがぶら下がっているわけでもなく、美しい旋律がそこに存在しています。第2部に入ってからは水を得た魚のように生き生きとした演奏に変わっていましたので、恐らく練習で第1部では相当苦労されたんだろうなあと思います。それほど、ブラームスの「運命の歌」という曲は実は難曲なんです。本来は東京混声合唱団が歌ってもいいくらいの曲なんです。それでも一定のレベルをたたき出すTGYさんはさすがです。
またオーケストラであるアンサンブル・ジムニカさんが素晴らしい!寄せ集めだとは思いますが高いレベルの演奏です。おそらく全員プロの方だと思いますが、そう考えると指揮者の山本さんが第1部で多少強めに歌わせたのはオーケストラとバランスをとるためだったと言えるでしょう。この辺りもプロの歌手が指揮をしている利点でもあるかと思います。
②ブラームス 哀悼の歌
ブラームスの「哀悼の歌」は、1880~81年にかけて作曲され、1881年に初演されたオーケストラと混声合唱のための作品です。ブラームスの友人であった画家、フォイエルバッハの死をきっかけに作られました。死がテーマになっていますが、それが人の死ではなく芸術の死であること、そして歌詞の内容からギリシャ神話の知識が必要であることも特徴です。作詞はドイツの詩人、シラーによるものです。
この曲も実はそれなりに柔らかい発声と表現が必要な作品で、求められるレベルは「運命の歌」とほぼ同じです。ただ多少この「哀悼の歌」のほうが簡単とは言えます。「運命の歌」ほどの弱いppが求められるのは本当に歌い出しだけなので、あとは多少強めでも十分っ表現できるからです。
今回の演奏も、明らかに歌いやすく感じているという印象を受けました。ppも含めてより生き生きと歌えているんです。それと、恐らくですがこの「哀悼の歌」の方が歌い出しの音が高い、ということもあるでしょう。「運命の歌」は実は歌い出しはアルトパートで、低めの音で始まりますが、この「哀悼の歌」はソプラノパートから歌いだすので比較的音が高いので、その分歌いやすかったということはあるかと思います。詩人がヘルダーリンではなくシラーだったということもあったかもしれません。この二人の詩の特徴は異なることが多いので、当然ブラームスもその特徴をとらえて違いを付けて作曲しているわけで、差がついて当然ですし、音楽的に異なっても当然だと言えます。その分、合唱団は楽だったのではないかと思います。その意味では、アマチュアがもっと歌ってもいい作品なのではないでしょうか。その代わり歌詞の意味を理解するにはそれなりのギリシャ神話の知識が必要になりますが・・・
③モーツァルト レクイエム
モーツァルトのレクイエムは、1791年に作曲された「死者のためのミサ曲」です。ただ、生前には演奏されず死後初演されました。他者の葬儀のためにかかれたという有名なエピソードが残っていますが、妻のコンスタンツェが楽譜を手許に遺しておいたことでモーツァルトの作品だとされました。ただ完成はせず弟子のジュスマイヤーが補筆して完成されているため、現在でも様々な版が存在することになっています。通常はジュスマイヤー版が選択されます。
今回はジュスマイヤー版が選択されており、楽譜はベーレンライターでした。なぜそれがわかるかと言えば、ベーレンライターだと大抵楽譜が青表紙だからで、今回も青だったのでベーレンライターを使ったのだとわかりました。私は2階席でしたがばっちりそれは判りました。ゆえに第一生命ホールはそれほど大きいホールとは言えないんです。勿論小さくもないですが。アマチュアにはうってつけのホールです。
演奏は、ここでは合唱団が本当に生き生きと歌っているのですが、多少荒っぽい部分もあったかなと思います。特段ぶら下がっているわけではないのですが・・・後は、音が上下に動く時に音が切れ気味なのも多少気になりました。レガートで歌っている部分もあるのでこれは指揮者の山本さんの指示だと思います。この辺りは解釈の違いもあるのでそれが間違っているとは言えませんが、私は遠藤正之氏の薫陶を受けたものなので、気になりました。私自身も歌ったことのある曲なので細部まで覚えている作品ですが、これも粗が目立ちやすい曲ですのでその点では前回歌った時から時間も経っているということも、理由の一つだったのかもと思います。人間って年取りますからね・・・それと、メンバーの入れ替えだってあります。TGY合唱団さんには若い人もかなりいらっしゃいますが、ミサ曲を歌いなれているわけではないということもあります。そうなるとなかなか音が上下するような作品を歌いなれてはいないメンバーもいることになりますし、また以前歌ったメンバーも歳をとるわけで、そんなメンバー構成の中ではなかなかすべてをレガートに歌うことは難しいと思います。
その条件の中では、素晴らしいパフォーマンスだったと思います。全体的に力強くも美しいアンサンブルが貫かれていましたし、それが各曲に於いて繊細な表現にもつながっていました。ソリストの歌唱とのバランスも良く、アマチュア合唱団としてはかなり高いレベルの団体だと思います。
またオーケストラは室内管弦楽団の編成のため、オルガンがはっきり聴こえていたのも素晴らしい!なかなかモーツァルトのレクイエムだとオルガンの音が聞き取れないこともしばしばですが、今回オルガンの音が聞き取れたのは素晴らしい経験でした。その意味では、指揮者の山本さんは、合唱団の経済力もあるかと思いますが、そもそも今回の3つの作品が必ずしも大編成で演奏されなかったのではという見識に基づいているように思われます。ブラームスの2つの曲も合唱団はおそらくアマチュアだったでしょうし、モーツァルトのレクイエムも初演時は現在のフルオーケストラからは少ない人数で演奏されたはずですし、オーケストラの人数も少なかった時代です。今回オルガンを含め28人。通常の半分以下です。それでもしっかりアンサンブルは成立し音楽は鳴っています。その意欲的な編成に果敢に挑戦したTGYさんの心意気を感じます。そのアンサンブル・ジムニカさんとすでに幾度も共演しているという経験がなせる業でしょう。
全体的にレベルの高い素晴らしい演奏でした。次回は来年の秋とのことですが、そこは実はFBFが参加している合唱団も予定されているので、バッティングしなければ是非とも足を運びたく思います。
聴いて来たコンサート
TGY合唱団第11回演奏会
ヨハネス・ブラームス作曲
運命の歌 作品54
哀悼の歌 作品82
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲
レクイエム ニ短調K.626
櫻井愛子(ソプラノ)
谷地畝晶子(アルト)
西山詩苑(テノール)
浅井隆仁(バリトン)
石川=マンジョル優歌(オルガン)
末永千湖(コンサート・ミストレス)
アンサンブル・ジムニカ
山本義人指揮
TGY合唱団
令和7(2025)年9月13日、東京、中央、第一生命ホール
地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。