かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:コレギウム・ヴォカーレによるバッハのミサ曲

東京の図書館から、今回は府中市立図書館のライブラリである、コレギウム・ヴォカーレによるバッハのミサ曲のアルバムを取り上げます。

コレギウム・ヴォカーレは、バッハのカンタータ全集で古楽演奏を取り上げた時にも参加していた団体ですが、そのことで合唱団だと思われることが多いです。かくいう私もそのように思っている時もありました。ですが実はバッハ・コレギウム・ジャパン同様、管弦楽団もある団体なのです。つまり、バッハ・コレギウム・ジャパンコレギウム・ヴォカーレを先生に設立されたとも言えるわけです。

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正式にはコレギウム・ヴォカーレ・ヘントです。ヘントが付くのは実はヘント大学で学ぶ学生によって設立されたからで、その中心人物こそ、指揮者であるフィリップ・ヘレヴェッヘで、このアルバムでも指揮を担当しています。

驚くのは、ヘント大学には実は音楽を専攻する学部がないことです。むしろ理工系しかも実学系が多いように思います。日本ではゲント大学と英語読みで記載されることもあります。

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ですが、ヘレヴェッヘがこのヘント大学卒ということが、このアルバムに色濃く反映されているように思います。ヘレヴェッヘウィキペディア項目も挙げておきましょう。いやあ、私も近いものがあるので物凄く親近感がわきます。

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実際にはヘント大学には別部門としてカレッジの音楽院があるそうで、もともとは王立音楽院だったそうです。そんな環境で学ぶとおのずから学究的になるかもと思います。私も自分の視点が歴史的なのはやはり中央大学文学部史学科国史学専攻(現在は日本史学専攻)に在学しつつサークルが史蹟研究会だったということがありますので。

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このアルバムはバッハのミサ曲が収録されていますが、バッハのミサ曲といえばロ短調ミサが有名です。ですがロ短調ミサはバッハが生きた18世紀ドイツにおいては異形の存在です。なぜなら当時のドイツは基本的にキリスト教プロテスタントルター派です。ゆえにミサ曲は一部しか演奏されずその一部をミサ曲と呼びます。ロ短調ミサのように完全にカトリックと同じような形を採るものはまずないのです。

このアルバムに収録された2曲も、プロテスタントルター派の様式を採る作品で、キリエとグローリアのみです。それがプロテスタントルター派では通常なのです。むしろバッハの時代のミサ曲の典型例が収録されたというべきアルバムなのです。こういう作品を取り上げるのはさすがヘレヴェッヘです。

その典型的なルター派のミサ曲ですが、収録されているのはBWV233とBWV236です。

①ミサ曲ヘ長調BWV233
ミサ曲ヘ長調BWV233は、1738年もしくは1739年頃に成立した作品で、ヴァイマル時代のキリエBWV233aを改作してグローリアを付け足したものとされています。旧作との対照表を以下に挙げておきます。

第1曲キリエ BWV233a
第2曲グローリア・イン・エクセルシス・デオ 不明
第3曲ドミネ・デウス BWV Ahn18(テキストのみ伝承)
第4曲クイ・トリス BWV102第3曲
第5曲クォニアム BWV102第5曲
第6曲クム・サンクト・スピリト BWV40第1曲

殆どがカンタータからの転用です。つまり、バッハはカンタータの作曲に於いて、場合によってはミサ曲へと転用することも念頭に置いて作曲していた可能性が高いと言えます。

キリエは荘重に始まりますが、グローリアからは生き生きとした音楽となっており、ヘレヴェッヘは生命力あふれる演奏で彩っています。ヘレヴェッヘはそもそも理系の学生だったはずですが、まるで東京藝大出身の鈴木雅明と同じアプローチをしています。もうヨーロッパの文化の深さを感じざるを得ません。バッハの音楽が持つ音楽の三要素が一体となってまさに「音楽を捧げている」形を見事なタクトで指示し演奏させています。重々しさと軽やかさのコントラストも魅力的です。

②ミサ曲ト長調BWV236
ミサ曲ト長調BWV236は、これも1738もしくは1739年頃にライプツィヒで成立した作品です。これもライプツィヒで作曲された教会カンタータBWV17、BWV79、BWV138、BWV179から抜き出されています。対応表を挙げておきましょう。

第1曲キリエ BWV179冒頭合唱
第2曲グローリア・イン・エクセルシス・デオ BWV79第1曲
第3曲グラツィアス BWV138第5曲
第4曲ドミネ・デウス BWV79第5曲
第5曲クォニアム BWV179第3曲
第6曲クム・サンクト・スピリト BWV17冒頭合唱

特に冒頭合唱を基にしているのが第1曲と第6曲で、これは明らかにカンタータを意識した構成です。ですが本来はコラールであるはずなのにミサ通常文でも違和感がないのです。ということはこれもバッハがカンタータを作曲するときにミサ曲へと転用することを念頭に置いていた可能性を示唆するものと言えます。むしろ調べればそれが分かるように、このアルバムをヘレヴェッヘが作り上げたとも言えるでしょう。

なぜ私がそれに共感するかと言えば、日本史においてもこのような例がいくつか見受けらるからです。例えば琵琶湖の竹生島にある都久夫須麻神社の本殿は元々豊臣秀吉が立てた伏見桃山城の城門を移築したものです(桃山城がそもそも聚楽第からの移築なので聚楽第の遺構とも言われます)し、地方の城郭の中にも天守閣で他の城から移築したものもあると言われています。また平安京も内裏などの政庁関係の建物は平安時代当時は奈良の平城京から長岡京を経て移築されたものでした。同じ様なことをバッハも作品において行っていたと考えれば、国史学専攻だった私としてはなんら不自然に感じないのです。

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まるで平安遷都によって新しい時代が花開いたかのように、旧作のカンタータを新作のミサ曲へと作り変えたバッハ。その気風を受け継ぐかのように、爽やかな風をヘレヴェッヘが作品に吹き込んでいます。特に第2曲以降の軽やかさには生命力を感じます。BWV233同様にBWV236でもリズム感をしっかりと感じつつも旋律も感じるバランスの良さ。それが織りなす美しい綾は人間の賛美の美しさを表現しているようです。

二つのミサ曲が意味するバッハの芸術作品の意味を、じっくりと楽しく味わえる演奏です。総合大学出身のヘレヴェッヘらしいアプローチが、バッハの芸術への理解を深めてくれます。

 


聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
ミサ曲ヘ長調BWV233
ミサ曲ト長調BWV236
アグネス・メロン(ソプラノ)
ゲラルト・レスネ(アルト)
クリストフ・プレガルディエン(テノール
ペーター・コーイ(バス)
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮
コレギウム・ヴォカーレ・ヘント

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