かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:ブラームス 交響曲第1番・第2番他(Live at セイジ・オザワ松本フェスティバル2024)

今月のお買いもの、今回はブラームス交響曲第1番と第2番他を収録したアルバムをご紹介します。昨年のセイジ・オザワ松本フェスティバルにおけるライヴ録音。指揮は沖澤のどか、サイトウ・キネン・オーケストラの演奏です。Qobuzネットストアでの購入、ハイレゾflac96kHz/24bitです。

このアルバムは昨年11月に出版されましたが、賛否両論がネット上では飛び交っています。特にこのアルバムの購入に至ったのは、Facebookの閉鎖グループ「クラシックを聴こう!」における投稿でした。軽くて聴いていられない、というものです。

沖澤のどかは、既にいくつかのオーケストラを指揮していますし、またテレビでその指揮なども放映されている指揮者です。女性ということで注目されていますが、一人の指揮者として見た時に、いったいどのように評価するべきかは、私自身も考えていたところで、ちょうどいい機会なので購入し聴いてみようというのが今回の動機です。特に、実はこの2024年のフェスティバルは、私自身足を運びたかったものでもあったため、ほぼ即決でした(残念ながらフェスティバルは足を運べませんでした。その資金を立山黒部アルペンルートのほうに回しましたので・・・)。

このアルバムは、昨年8月のフェスティバルのうち、Bプロがメインに収録されています。それにAプロのリヒャルト・シュトラウス交響詩ドン・ファン」がカップリングです。できればAプロもCDもしくはハイレゾ化されるといいなあと思います。

www.ozawa-festival.com

www.ozawa-festival.com

さて、このアルバムは2枚組になっており、珍しくハイレゾでも2つのフォルダに分かれており、今回はそれを一つとして扱います。つまり、第1番と第2番、そしてカップリングの「ドン・ファン」も一緒に評論しようと思います。まずは1枚目です。

ブラームス 交響曲第1番、リヒャルト・シュトラウスドン・ファン

ブラームス交響曲第1番は、ベートーヴェンの第10番とも言われることもある作品ですが、実際にはブラームスの個性が反映されている作品でもあります。ただ、ベートーヴェンの影がちらつく作品とも言えます。

ja.wikipedia.org

沖澤さんの解釈は、保守的なテンポではあるのですが、細かいところでいきなりテンポアップしたりします。要するに細かいところでアコーギクがあるんです。私としては、どこか保守的なテンポの中で、古典的な解釈をしようとしているように聴こえます。全体的には全く軽薄には聴こえませんが、そのテンポが変わるところが、お!と感じる点で、そのあたりは19世紀的などっしりとしたテンポが好きな人だと「軽薄」と考えるのかもと思います。ただ、以下のエントリでご紹介した演奏に比べますと全然速いテンポではなくむしろ多くの指揮者が選択するどっしりとしたテンポのほうに近い演奏です。

ykanchan.hatenablog.com

このエントリでご紹介した、ヴィンタートゥール・ムジークコレギウムが軽薄かと言えば、全くそんなことはありません。今回の沖澤さんの解釈は、ある意味このヴィンタートゥール・ムジークコレギウムの演奏を志向したもののように聴こえるのです。にも拘わらず基本的なテンポは保守的です。要するに中途半端なところもあると思うのです。しかしこれは若くしかも女性という沖澤さんらしい解釈だと思います。ある意味、沖澤さんはマイノリティーです。そうなると、旧来とは違った視点を持っています。ヴィンタートゥール・ムジークコレギウムのような、もっと古典的な解釈をしても全くおかしくありませんし、この第1番がベートーヴェンを志向した作品であるとすれば、むしろ古典的な解釈をしようとする人がいてもおかしくはありません。

つまり、沖澤さんの解釈は、ブラームスベートーヴェンを志向して古典的なものに憧れつつも、やはり自分は後期ロマン派の作曲家だと気付いていく過程、ということになります。そう考えて聴きますと、なんと素晴らしい演奏であることか!オーケストラは小澤征爾の指揮でも素晴らしい演奏を残した、サイトウ・キネン・オーケストラです。表現力もありますが、しっかりと沖澤さんの指示には従っているんですよね。しかし以前の小澤征爾のイメージで聴いてしまうと、あれ?と裏切られた気持ちになって、批判につながるんでしょう。でも聴いてみれば、沖澤さんの若々しい解釈にあふれています。

その解釈がいい方向に行ったのが、カップリングのリヒャルト・シュトラウスドン・ファン」です。生き生きとした演奏は、生命の泉のごとくで、次々に音がわいてくるようです。その意味では、次にブラームス交響曲第1番を演奏した時に、どんな演奏になるのか、非常に楽しみです。後期ロマン派も下手すれば新古典主義音楽へと移行する時代の真ん前の作品でそれだけ生き生きとした解釈になるわけですから。

ブラームス 交響曲第2番

2枚目は、ブラームス交響曲第2番。この第2番では、保守的なゆったりとしたというか、いろんな指揮者とあまり変わらないテンポを採用しています。これを聴きますと、第1番の演奏がなるほど~と思うのです。つまり、第1番の回答は第2番にあった、ということになります。

これは明らかに、当日のプログラムが並んでいたことからの解釈だろうなあという気がします。とはいえ、このアルバムは収録日時の日付は2024年8月としかないため、恐らく2日間のいいところを集めているんだろうなあと思います。ですがおそらく、2日間でそれほどテンポは変わらなかったのではと思います。2日間の録音からいいものだけが選択されているということは、そこにレコーディングプロデューサーの視点も入っているということになり、恐らく私と同じ意識で編集していると思うからです。

第1番で古典派の作曲家であるベートーヴェンを意識しつつも、後期ロマン派の作曲家を意識したブラームス。そして第2番では完全に目覚めて、後期ロマン派の作曲家としての自分の個性を追求していく・・・そういう「物語」を、コンサートで表現してみたと言えるでしょう。

このアルバム全体を聴いて初めて、沖澤さんの言いたいことがわかる仕掛けになっているのは、私としては魅力的なアルバムです。確かに初め聴いた時は「おや?」と思いましたが、第2番まで聴いて初めて、沖澤さんが演奏に於いて言いたいことが伝わってきて、なるほど~と感心しました。こういう解釈と演奏ができるのか!と目からうろこです。おそらく2日間で同じ解釈を続けたことで、レコーディングプロデューサーもその沖澤さんの意志が伝わるように編集したことでしょう。レーベルはデッカですから、それほどおかしな編集をするとは思えませんので、恐らく私の解釈と同じだと思います。

その意味では、とても楽しいひと時を過ごせたなあと思います。ライヴで聴けた人たちは本当に幸運な時間を過ごすことが出来たのではないでしょうか。私はこのアルバムを高く評価するものです。こういう日本人指揮者を待っていました!

 


買ってきたハイレゾ
ヨハネス・ブラームス作曲
交響曲第1番ハ短調作品68
リヒャルト・シュトラウス作曲
交響詩ドン・ファン」作品20
ヨハネス・ブラームス作曲
交響曲第2番ニ長調作品73
沖澤のどか指揮
サイトウ・キネン・オーケストラ

(Decca UCCD45032 flac96kHz/24bit)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。