かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:戦いと嵐~ビーバー&ロック作品集

東京の図書館から、今回は小金井市立図書館のライブラリである、ビーバーとロックの二人が作曲した作品を収録したアルバムをご紹介します。

小金井市立図書館にこんなのがあったのか!と目からうろこなのがこのアルバムです。我が国に置いてバロック音楽と言えばまだまだバッハだけのようなところへ、図書館の資料にこんなCDがあったなんて!ということで借りてきたのでした。

ビーバーもロックも、私自身名前しか知らない作曲家でした。聴いてみればなんとも魅力的な作品を書く作曲家です。ビーバーはオーストリアの作曲家で、そもそもはチェコ出身の作曲家。其れゆえか、収録されている「戦闘」やソナタなどは意外と新しい感じがします。

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一方のロックは、イギリスバロックの作曲家で、王政復古以降のイギリスで重要な役割を果たした作曲家です。王に取り入った後は自分の音楽を作り続けたようで、収録されている「テンペスト」も、荘厳というよりはむしろ洒脱な感じがします。

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その合間に、たとえばこのアルバムの第1曲目はゼレンカだったりするのですが、それらが実にまるでビーバーやロックが作曲した曲もために書かれたかのような感覚に陥ります。もちろん別人の作品なのですが、バロック期においては、別人の作品を「序曲」として自分の音楽を演奏するということもありました。このアルバムではロックの「テンペスト」は実は機会音楽で、小オペラという位置づけの、1667年に完成した作品です。

ビーバーの「戦闘」もそんな位置づけにあるようです。なるほど、ゼレンカのファンファーレとやけに親和性があるなあという感じがします。ゼレンカチェコ出身のバロック期の作曲家ですしね。

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しかし、奇異に思われる方もいらっしゃると思います。ビーバーとロックでは、活躍した場所が同じヨーロッパとはいえ違いすぎるのでは?と。戦いと嵐、共通するようでそうでもないこの二つで実は結び合わせているのは、おそらくこのアルバムの影の主人公であろう、イギリススチュワート朝のチャールズ2世です。ロックが仕えた王様ですが、この人一時期、オランダへ亡命していたのです。

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オランダだけではなく、最終的にはドイツのケルンに亡命王朝をたてています。となると、そこにはドイツ・バロックとの接点があり、そこでビーバーということになるのだろうと思います。もちろん、ビーバーで検索してもチャールズ2世との関係は出てきませんが・・・・・しかも、ビーバーはザルツブルクの宮廷音楽家であり、英国国教会であるチャールズ2世とはどう考えても接点が見いだせないからです。ただ、チャールズ2世が中欧まで亡命したことで、ドイツとフランスの「先進的音楽」に触れる機会は膨大にあったはずです。

そこで知った音楽を、王政復古後、イギリスへと導入しようとしたのがチャールズ2世でした。それにこたえようとしたがロック。ですが、チャールズ2世の先進的な意識は、市民が力を持つようになったとはいえ、意識の上ではまだまだ保守的だったイギリスにおいて否定されるようになります。おそらくその過程でロックも保守的な意識を持つようになったのでしょう。必ずしも王が求めるような作品を造ってはいないようです。

実は年齢的にはビーバーのほうが若く、ロックのほうが年配という部分もあるんでしょう。実際二人もその後の音楽史に影響を与えた人物であることは確かなのですが、その活動環境が二人のスタンスに差をつけてしまったように思います。

演奏するのは、イル・ジャルディーノ・アルモニコ。この二人の作品を取り上げているアルバムとしてはアーノンクールウィーン・コンツェントゥス・ムジクスが有名ですが、この二人の作品の再評価が進んできた現代という時代において、のびのびかつ生き生きとした、生命の発露を感じる演奏をしています。作品を慈しみ、楽しんでいる様子が演奏から伝わってくるのは聴いていてとても楽しいです。特に二つとも王だとかからは全く外れた作品であることも、その演奏へとつながっている要因の一つかもしれません。じっくり味わうというよりは、とにかくノッテしまえる演奏で、バロック期の音楽の深さを「体験」できる名演だと思います。

 


聴いている音源
ヤン・ゼレンカ作曲
ファンファーレ ニ長調
ハインリッヒ・イグナーツ・フランツ・フォン・ビーバー作曲
戦闘(バッターリア)ニ長調
パッサカリア ハ短調
作曲者不詳
ウッドラック・チューン(鳥類愛好家の喜び)(ロンドン 1717 から)
ハインリッヒ・イグナーツ・フランツ・フォン・ビーバー作曲
描写的ヴァイオリン・ソナタ イ長調
リチェルカーレ(E.オノフリ作)
ハインリッヒ・イグナーツ・フランツ・フォン・ビーバー作曲
パルティ―タ第7番ハ短調
マシュー・ロック作曲
二重カノン~ヘレフォードのウィリアム・プロード氏による旋律に基づく 1654)
テンペスト」のための音楽
ジョヴァンニ・アントニーニ音楽監督
イル・ジャルディーノ・アルモニコ

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