かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:ショスタコーヴィチ フィルム・アルバム

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回はショスタコーヴィチの映画音楽を収録したアルバムをご紹介します。

ショスタコーヴィチ交響曲で特に有名なのですが、その交響曲で当局から目をつけられてしまった作曲家でもあります。特に「ロシアン・アヴァンギャルド」を支持したことにより、ショスタコーヴィチの作風は一変してしまいます。そうせざるを得なかったわけなので・・・・・

そこで生活のために携わったのが、映画音楽でした。単に社会主義の理想を歌うものから、明らかにプロパガンダのものまで、とにかくほどえり好みせず携わっています。それゆえにヴォリュームはたくさんあります。

そんな中から、一部を収録したのがこのアルバムです。日本ではほぼダスビ一択となる録音ですが、海外では有名オケも収録しています。これもそんな一つで、シャイー指揮のロイヤル・コンセルトヘボウ。意外でしょ?オランダの、ロイヤルを冠する歌劇場オケですよ。もうクラシックファンならアムステルダム・コンセルトヘボウの名で知っている人も多い有名オケ、です。

そのオケが、共産主義の理想を歌い上げる映画のサウンドトラックを録音するとは!です。ですが、ショスタコーヴィチの他作品と映画音楽は結構密接にかかわっているので・・・・・

特に、ショスタコーヴィチの映画音楽は、ショスタコーヴィチ自身の交響曲に引用されることが多く、あれ?どこかで聞いたことあるぞ、という音楽は結構あります。その一つが、「呼応計画」の中にある、「呼応計画の歌」ではないでしょうか?

www7b.biglobe.ne.jp

このエントリの作者は、もしかするとよく歌われたというのがこれを指すのか、それとも引用されたものを指すのかまでは示していませんが、じつはこの作品、歌声喫茶あたりの経験がある人ならすぐさま「あ、森の歌!」と気づくはずです。この曲、明らかに森の歌に引用されています。第5曲「レニングラード市民は前進する(もともとは、「スターリングラード市民は前進する」)がそれです。

ja.wikipedia.org

そうわかってしまうと、なぜ「森の歌」でショスタコーヴィチが名誉回復できたのかがわかります。ショスタコーヴィチはこれを入れれば受けることがわかっていて引用しているということがわかります。つまり、聴いている人が聴けば「あ、呼応計画の歌!」とわかるようにビルトインしてある、ということです。さらにその旋律を「祝典序曲」にもなぜ引用したのかも、こうわかってくると意味深であるということもわかってきます。

このアルバムは、その意味でいかにショスタコーヴィチの作品で引用が重要なファクターなのかを教えてくれます。映画音楽はただ単にショスタコーヴィチが生活困窮をしのぐために書かれたということで残ったのではなく、そこに意味があるからこそ残ったと言えるでしょう。実際、ショスタコーヴィチはわざわざ映画音楽にも策品番号をつけています。これが一体何を意味するのか・・・・・

そんなこともあるせいなのか、コンセルトヘボウの演奏は幾分おとなしめなのが気になります。それはそれでショスタコーヴィチへの共感なのでしょうが、ダスビの演奏に比べると、元気ないんですよねえ。そこはとても気になります。映画音楽ですから、もっと表情をつけてもいいとは思うんですが。それはさすがにソ連プロパガンダに乗ってしまうからダメ、だったのか?ただ、録音年代は1998年。すでにソ連は崩壊してロシアに変わっています。少なくともソビエト共産党はロシアにおいて有力政党ではなくなっています。

ただ、ヨーロッパにおける共産主義嫌いの影響を存分に受けているのかもしれません。ただ、それが本当にショスタコーヴィチへの共感になるかは疑問ですねえ。もちろん、これはこれでシャイーとコンセルトヘボウ自身の「歌」なので評価しますが、下手ではあるが、ショスタコーヴィチへの共感と愛にあふれている、ダスビの演奏と比べると、特に「女ひとり」などはダスビの演奏のほうが生き生きとしているため、プロオケのほうが見劣りするという結果になっているのは非常に残念です。

その意味では、真に共感しているプロオケの演奏を待ちたいと思います。

 


聴いている音源
ドミトリー・ショスタコーヴィチ作曲
呼応計画 作品33(抜粋)
①プレスト
②アンダンテ
③呼応計画の歌
女ひとり 作品26(抜粋)
④行進曲/通り
ギャロップ
⑥手回しオルガン
⑦行進曲
⑧アルタイ
⑨クズミナの小屋で
⑩生徒たち
嵐の場面
⑪嵐の起こり
⑫雪嵐
⑬嵐のあとの静寂

⑭愚かな子ネズミの物語 作品56(編曲:アンドルー・コーナル)

ハムレット作品116(抜粋)
⑮イントロダクション
⑯宮殿の音楽
⑰城での舞踏会
⑱舞踏会
⑲庭で
⑳軍隊の音楽
㉑毒殺の場面
偉大なる市民 作品55
㉒葬送行進曲
ソフィア・ペローフスカヤ 作品132
㉓ワルツ
先駆者の道 作品76a
スケルツォ
馬あぶ 作品97
㉕ロマンス
先駆者の道 作品76a
㉖フィナーレ
アレクサンダー・カー(ソロ・ヴァイオリン、②・㉕)
フェイ・ロヴスキー(セレミン、⑪)
リッカルド・シャイ―指揮
ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。