かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:ナクソス「日本作曲家撰集」が出した武満徹の管弦楽作品集

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回は「鳥は星形の庭に降りる」という武満徹管弦楽作品をタイトルにした、ナクソスのアルバムを御紹介します。

標題にも書きましたが、これはナクソスの「日本作曲家撰集」の一つなのです。そこで、もう世界的にも有名である武満を採り上げるって言うんです。

そのため、このアルバムは実はかなり前から狙っていたもので、一度は山野で新譜もしくはディスクユニオンで中古と考えていました。しかし、人気のアルバムなのか、そのうち店頭から姿を消しました。

ところがです。ふと神奈川県立図書館の棚を見てみれば、あったわけなのです。それではと言うことで借りてきたのが此れでした。時間がなくて解説を書き写すことができなかったのが少し悔やまれます。

それでも、武満の管弦楽作品というのはある程度耳を傾けていればいろんなメッセージが受け取れるので、解説は要らないって人もいるかもしれませんが、やはり私はあったほうがいい派ですね。まずはどんな意図があるのかが知りたいので・・・・・それは作品と「対話」する上ではまず条件としてないと困るって思います。ないならないで自分の中で創造力を膨らませればいいのですが、ある場合はそれは厄介な問題になりますから・・・・・

まずは1曲目の「精霊の庭」。武満晩年の1994年に、飛騨古川国際音楽祭の委嘱で作曲されました。え、そんな田舎で音楽祭やっているんですかって驚かれるんですが、日本はずいぶん田舎でクラシックの音楽祭をやっているんです。飛騨の近くでいえば木曽音楽祭もそうです。未だに室内楽中心で開催されているのは本当に素晴らしいことだと思います。勤務が柔軟になったため、私も来年は基礎音楽祭とか行きたいなあって思っています。

そもそも日本人自身が、飛騨ってどこ?古川って?え、サッカー?(それは古河ですな、ジェフです)って感じかも知れません。岐阜県って言って、それでもわからないって人もいるのかもしれませんね、いまどきは。

https://www.city.hida.gifu.jp/

「鉄」だと、ああ、あの特急ひだが止まる、飛騨古川駅ね!って判るのですが、そんな場所でクラシックの音楽祭が開かれ、勿論海外の演奏家も参加するということを、それぞれの音楽祭が情報発信しないので日本人聴衆ですら知らない人も多いのではって思います。

そんな飛騨古川の町並みからインスピレーションを得たのが、「精霊の庭」です。

武満徹/弦楽のためのレクイエム、精霊の庭
http://kimamalove.blog94.fc2.com/blog-entry-2565.html

飛騨もそうですが、木曽も、日本の谷間の町というのは、どこか深遠な雰囲気を持っています。そんな深遠な雰囲気を出すために、武満は12音階という手法を使っています。旋律線がはっきりしないので多くの人にとっては苦痛と受け取る可能性もある手法ですが、武満は敢えて使っています。時間と空間がそこで交差し、一つの宇宙と化す・・・・・・そんなイメージが、この作品からは沸いてきます。

2曲目の「ソリチュード・ソノール」。ナクソスなのでその題名になっていますが、ウィキでは邦題として「黒い絵画 レオノーレ・フィニによせて」という題名が出されています。画家レオノーレ・フィニの画にインスピレーションを得た作品です。

レオノール・フィニ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%AA%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%8B

「精霊の庭」のような、これも混沌とした宇宙が呈示されている感じです。

3曲目は「3つの映画音楽」。3つの映画「ホゼ・トーレス」(勅使河原宏監督)「黒い雨」(今村昌平監督)「他人の顔」(勅使河原宏監督)に提供した音楽を弦楽合奏のための作品に編曲したものです。特に注目なのが、「ホゼ・トーレス」。これは実はドキュメンタリーで、プロボクサーであるホゼ・トーレスを追った作品です。

勅使河原宏『ホゼー・トレス』、『ホゼー・トレス Part II』
https://blog.goo.ne.jp/sightsong/e/32a04eb8097f60ed72694b3765c4b91a

クラシックの作曲家って、スポーツは自分が苦手だったせいか、テーマとして避けるんですよね。けれども武満は仕事として引き受け、品がありつつもどこか混沌とした様子を描くのに成功しています。

後の二つ、特に「黒い雨」は有名すぎる作品で、そのサウンドトラックが武満だったなんて知らない人も多いと思います。映画好きの人と話しても音楽まではなかなかわかり合えないことが多いのですが、ナクソスがこういった映画音楽も取り上げてくれるのは本当にうれしい話です。20世紀の作曲家は、映画音楽と無関係ではないからです。武満もそういった作曲家の一人です。勿論、距離を取った作曲家達もいますけれど、それはそれでまた評価すべき業績だと私は想っています。映画音楽を作曲するってことは、さかのぼればバッハのカンタータベートーヴェンの「エグモント」と同じ作業であるからで、映画音楽だから低く見るってことは、バッハのカンタータベートーヴェンの「エグモント」を低く見るってことにつながるからです。

そういう意味では、私が映画を見る時、そのストーリーだけではなく音楽も気になったりします。なので例えば、エミネムを主人公した「8マイル」を見た時、ラップ好きな仲間と話が弾んだことを覚えています。「8マイル」のサウンド・トラックにはエミネムの作品が溢れているからです。こういうことが映画好きだったりクラシックが好きな人たちと共有できないのは、本当に悲しいです。

4曲目が「夢の時」。じつはこれは舞踊音楽で、ネーデルランド・ダンス・シアターの振付師、イリ・キリアンの委嘱を受けて書かれた作品です。

武満徹 Takemitsu
■夢の時
http://www.oekfan.com/note/takemitsu/dream_time.htm

ここまでの武満音楽と雰囲気は似ていますが、それで舞踊音楽としてしまうんですから、驚きです。舞踊は英語では「ダンス」ですが、どこか日本ではダンスと舞踊が別物って感じになっているのが気になります。もともとは英語なのか日本語なのかの違いでしかないため一緒であるはずなのですが、日本舞踊という言葉でネガティヴなイメージがあるのかもしれません。けれども、民族舞踊というものは何処でもあまり動かないものです。その上で武満の音楽で踊ろうと言うのですから、必ずしも激しいものだけではないことは容易に想像できますが、それでも一度は踊っているところを見てみたいって思う音楽です。体を動かし表現することが大切なのであって、激しいことが大切であるのではないはずだからです。その意味では、エグザイルだけが評価されている現代日本は、どこかフィジカルという本当の意味を見失っているのではと思います。

最後に、アルバムのタイトルにもなっている「鳥は星形の庭に降りる」。これも写真からインスピレーションが拡がって行った作品です。

鳥は星形の庭に降りる
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B3%A5%E3%81%AF%E6%98%9F%E5%BD%A2%E3%81%AE%E5%BA%AD%E3%81%AB%E9%99%8D%E3%82%8A%E3%82%8B

武満って人は面白い人だと思います。作品の元となった写真は美術家であるマルセル・デュシャンが自分の髪の毛を「レディ・メイド」として発表したものだと言えます。言い方を変えればかなりファンキーな「野郎」であるわけで、そんなファンキーな事象からインスピレーションを受けて作曲すると言うことは、日本人作曲家ではかなりユニークだったと言えるでしょう。

マルセル・デュシャン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%B3

こういう柔軟性は武満にはあり、時として邦楽器であったり、時としてこんなセンセーショナルな美術だったり、多様性があり豊かです。こんな武満が私は好きです。一方で日本的な伊福部も私の好きな作曲家の一人ですが、それは明治以来欧米に左右されてきた日本人とは違い、自分の軸足がしっかりして、自立した芸術家だからだと言えるでしょう。

演奏するはオールソップ指揮ボーンマス交響楽団ナクソスでは結構お馴染みのコンビですが、日本人の作品をナクソスお馴染みのオケで演奏するとどうなるのかというのが注目点ですが、これがまた上品かつ異世界的でいいんです!さすが欧米のオケって感じです。表現力が素晴らしく、日本人以上に日本人武満が表現している「異次元のようなもの」がしっかりと表現されているのがいいですね。この点に関しては日本のオケに奮起を期待したいところです。武満は基本的な表現はクラシックの伝統にしっかりと即しているため、右翼からはクソサヨとか言われてしまうのですが、武満は少なくとも戦後日本の芸術観を代表する作曲家ですし、じつは戦前の延長線上でもあります。そういった点にあまり気づかずに評論している保守派論壇が多くて困るなあって思います。

特にすばらしいのが、第1曲の「精霊の庭」です。オケからすれば行ったこともない都市です、飛騨市なんて。それでも、あの飛騨の町並みが持つ過去と現在が交差する空間を、十二分に表現しているのは、語法がクラシックの伝統に即しているからです。だからこそ、私達日本人が欧米の作品を表現するのと同じように、海外のオケでも表現できる。このクロスオーヴァ―な点は素晴らしいって思います。此れが音楽の持つ力だって思います。




聴いている音源
武満徹作曲
精霊の庭(1994)
ソリチュード・ソノール(1958)
3つの映画音楽(1994/95)
鳥は星形の庭に降りる(1977)
マリン・オールソップ指揮
ボーンマス交響楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




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