かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:山田一雄 管弦楽作品集

今月のお買いもの、平成29年1月に購入したものを御紹介しています。今回はディスクユニオン御茶ノ水クラシック館にて購入しました、ナクソスから出ている日本作曲家撰集から、山田一雄管弦楽作品集を取り上げます。

いつもと違う店に行きますと、いつもとはまた一味違ったCDが見つかると言うものです。このヤマカズさんの作品集もそういったものになるでしょう。

そう、このアルバムは、あの指揮者山田一雄が残した管弦楽作品を収録したものなのです。

山田一雄
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E7%94%B0%E4%B8%80%E9%9B%84

ウィキでは指揮活動が中心に執筆されていますが、ブックレットを読みますと、本来は作曲家としての活動が主だったことが分かります。戦前は前衛作曲家として名をはせていました。それが一変したのが、敗戦でした。

自作の演奏を極力嫌ったのは、恐らく戦前の社会や、作曲の背景などが影響しているのでしょう。ここに収められている作品はどれも戦前〜戦中の作品ですが、ヤマカズさんの繊細な一面を見ることができますが、当時都合よく使われたであろうなあということが想像もできる作品が並んでいます。

まず第1曲目の「大管弦楽のための小交響楽詩『若者のうたへる歌』」は1937年の作曲です。もともとチェロとピアノのための作品で、後に新交響楽団(後のNHK交響楽団)の委嘱でこの管弦楽編成と作り変えられました。

丁度ローゼンシュトックやチェレプニンが来たりなど、日本の音楽界は当時のヨーロッパ楽壇の影響をダイレクトに受けた時代です。19世紀〜20世紀の民謡収集や、狂信的な国家主義による戦争の惨禍から一線を画す愛国運動である新古典主義音楽の影響が、一気に日本に入ってきたのでした。

山田も、そういった運動に参加して行った一人で、「プロメテ」という楽団を結成してもいます。日本的というだけではなく、その源流であるアジアに目を向けて、アジアそしてその中の日本という視点で、ちょうど国民楽派新古典主義音楽が紡いでいったように作品を紡いでいったのです。

若者というのは、私は山田本人ではないかと思いますが、当時の若者が持っていた進取の気質を賛辞し、故に世の中を憂える作品なのではないかなって思います。世の中が日本日本となっていく熱狂の中において、日本の立ち位置とは、私たちの芸術とはと、真剣に考えた、その想いが作品から伝わってきます。

次の「交響的木曽」は1939年の作曲です。NHKの委嘱で作曲され、木曽と名づけられていますが2部構成で、前半は東北の民謡、そして後半が木曽の旋律を使っていますが、曲名は「木曽」となっています。東北民謡のパラフレーズでありつつ、木曽節を管弦楽として展開した作品で、かなりいろんなものが盛りだくさんです。それでいて全体としての完成度は高く、前半の「おばこ(東北の方言で少女を意味します)」のように美しい作品に仕上がっています。

3曲目が交響組曲「印度」。もともとは合唱と独唱もついたバレー音楽(作品13)だったのですが、1940年に管弦楽だけで演奏できるよう手直しされたのがこの作品です。解説を読みますとどうやら日本のインド向け放送、つまりプロパガンダに使われた可能性があるとのことです。もっと言えば、作品13をプロパガンダ用に手直ししたのがこの作品だと言えます。

その形跡は作品そのものにあります。最初は印度風の旋律が出てきますが、段々日本的な旋律が多くなります。インドというのならインド的な旋律で全体を貫き通すのが普通ですが、そうではないところに、この作品が「何の目的をもって作曲されたのか」が明確になっているのです。おそらく、こういった点や、戦後それでも戦前のすべてのことが否定されたことがトラウマになって、ヤマカズさんは自作の演奏を拒否したのだろうなあと思います。

その最たるものが、最後に収録されている「おほむたから」です。1944年に作曲された作品ですが、その時期がこの作品を読み解くキーワードになります。おほむたからとは実は臣民、つまり大日本帝国憲法下の国民を指すのですが、その臣民が軽く扱われているのではないかという危惧を持った作品なのです。戦中戦後を通じてヤマカズさんはその危惧を語っており、確かに新古典主義音楽の延長線上にあるこの作品は、軍国国家主義ではなく、もっと自然な愛国主義に基づく作品であることは明白で、むしろ軍国主義国家主義であった戦前の否定でもあるのですが、戦後は戦前がすべて悪になってしまったのですね。それ自体仕方ないことではありますが、ヤマカズさんの心の痛手はいかほどだったでしょう。作品はどこかしら暗く、まるで葬送行進曲です。

これらの作品を聴いて思うのは、わたし自身同じように危機意識を持っているのですが、それは何も私だけはないし、戦前の時期にやはり同じように現状に危機意識を持っていた人たちがいたことに共感するのです。でもその意識は広く共有されることなく、日本は負け戦へと突入し、人権も抑圧され、やがて敗戦を迎えます。ヤマカズさんが受けた傷とトラウマは、かなりひどかったことでしょう。幸い、ヤマカズさんには音楽がありました。作曲は出来なくても指揮することができました。その活動がヤマカズさんを救ったのだと、これらの作品からはっきりと見て取れます。

指揮はナクソスの日本人作品収録ではおなじみのヤブロンスキー。オケはロシア・フィル。ロシアの実力演奏家が集まったこのオケの演奏で聴くヤマカズさんは人間味あふれています。それはヤマカズさんが目指した「新しい日本音楽」が普遍性を持っており、海外の演奏家たちにも共感される内容を持つことでもあります。ロシアのオケと言えばロシア的な雄大さと重厚さが演奏に出ることが多いのですが、このアルバムではそんなことは全くなく、むしろしっかりと日本的、或はアジア的な部分が浮かび上がっています。それはオケの実力及び作品のレベルの高さを、明確に示しています。つまりこれらヤマカズさんの作品は、高いレヴェルを持つことを、ロシアのオケが証明したと言えるでしょう。素晴らしいアルバムです。

是非ともナクソスさんにはこのシリーズを続けて行ってほしいなと思います。恐らく戦後であっても、再評価が必要な作品は多数あるはずです。右左に関係なく、掘り起こしてほしいなと思います。




聴いているCD
山田和男作曲
管弦楽のための小交響楽詩「若者のうたへる歌」
交響的木曽
交響組曲「印度」
おほむたから 作品20
ドミトリー・ヤブロンスキー指揮
ロシア・フィルハーモニー管弦楽団
(Naxos 8.570552J)

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




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