神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回からメンデルスゾーンの室内楽全集をシリーズでお届けします。
メンデルスゾーンと言えば、交響曲や管弦楽が有名で、そのほかは地味な存在ですけれど、幅広く作曲をしているひとであることは、何度か言及してきていると思います。
以前、合唱曲をやはりこのコーナーで特集した時にも言及しましたが、あまりにもメンデルスゾーンの作品は聴かれていないなあという気がしています。交響曲の一部や管弦楽になってしまうのが残念です。
もっと地味な、でも音楽史上とても重要な役割を果たしているにも関わらず、地味であるためなのか扱いが雑なのがとても気になっていました。
そのため、以前から借りたいと思っていたメンデルスゾーンの室内楽を、一気に借りようと思い立ったのが、この全集を借りたきっかけだったと思います。
メンデルスゾーンの室内楽が知られていないのかと言えばそうではなく、我が国では八重奏曲が有名ですが、それだけに終わっていたりするんですね。
この全集、まず第1集ではソナタを持ってきています。しかも、ヴァイオリン・ソナタ。じつはこのヴァイオリン・ソナタは未だ研究が進んでいない作品でもあります。その証拠に、作品番号が付いているのは一つだけで、後は2009年からつけられ始めた「MWV」もついていません。
でも、とても魅力的な作品が並んでいます。1曲目は1838年に作曲された、最後のヴァイオリン・ソナタヘ長調。とてもロマンティックで甘美な旋律が支配し、それでいてコントラストがはっきりしている作品です。第3楽章は早いパッセージが明るく健康的な印象すら与えます。
2曲目のヘ長調は、メンデルスゾーンが最初に作曲したヴァイオリン・ソナタで、1820年の作品です。最後のものと比べますと健康的な明るい旋律が支配します。その意味では、メンデルスゾーンの早熟ぶりを示す作品であると言えるでしょう。
3曲目のヘ短調作品4は、正式に作品番号が振られている作品ですが、第3楽章のフィナーレが終わったのかどうかちょっとわからない不思議な終わり方をします。短調であるせいかもしれませんが、メンデルスゾーンの一つの「仕掛け」を見るようで、これも楽しい作品です。
この3つのソナタに共通するのは、作曲年代はまだベートーヴェンが生きている時代あるいは死後すぐでありながら、ベートーヴェンが確立した二つの楽器が対等にアンサンブルするという様式を、当たり前に使っている点です。そのためなのでしょう、新しいことをやっていないからと日陰に置かれるのは。
でも、考えてみて下さい。ベートーヴェンが確立した様式は、その後多くの作曲家が踏襲し、名曲がいくつも生まれていますが、そのためには、その様式が当たり前なのだという人が現れなくてはなりません。それで世の中が変わらなくてはなりません。メンデルスゾーンはその「新しい様式が当たり前になる」役割を果たした人でした。
この3つのソナタは、明確にその「新しい様式が当たり前である」ことを示しているのです。これほど音楽史上、地味ですが燦然と輝く業績と、作品はありません。
前期ロマン派の、特にメンデルスゾーンやシューマンと言った作曲家は、後期ロマン派の作曲家たちに比べて地味な扱いをされてしまいがちなのですが、真に古典派から後期ロマン派への橋渡しをしたのがメンデルスゾーンとシューマンと言った作曲家だったのです。
演奏は、ヴァイオリンがベルクヘーメル、ピアノが橋本京子。共に自己主張をしながら、しっかりとしたアンサンブルは作品自体が持つ楽しさや深さを私達に示してくれています。作品を本当に楽しんでいる様子が手に取るようにわかります。
メディアを聴いてそれが分かる演奏というものもなかなかないんですが、巡り会えたのは本当に素晴らしいと思っています。プロらしくメンデルスゾーンだからと言って手抜きをすることなく真摯に作品に向き合っている姿勢も好印象です。メンデルスゾーンのヴァイオリン・ソナタがしっかりとした作品であることを聴衆に明確に示しているからです。
リサイタルではどうしても、客の入りを考えてプログラムを組みがちですが、是非ともメンデルスゾーンのこういった作品を一つでも取り入れるようにしてくれると、嬉しいなあと思います。勿論、それは私達聴衆の責任でもありますが・・・・・・
聴いている音源
フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ作曲
ヴァイオリン・ソナタヘ長調(1838年)
ヴァイオリン・ソナタヘ長調(1820年)
ヴァイオリン・ソナタヘ短調作品4(1825年)
ヨアン・ベルクヘーメル(ヴァイオリン)
橋本京子(ピアノ)
地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。
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