かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:サティ 作品集2

今月のお買いもの、平成27年12月に購入したものをご紹介しています。今回は、サティの作品集の2枚目をご紹介します。

この2枚目は管弦楽作品が多く含まれており、その完成度が高いことを示しています。各作品とも旋律としては比較的平易ながらも、和音進行がロマン派とは異なることから、演奏するには難しい点もあるだろうと思いますが、涼しい顔をして演奏されているのは本当に素晴らしいと思います。

その中でも、特に注目なのが、そもそもこのCDを買おうと思ったきっかけである、「ソクラテス」です。

幾つか解説しているブログもあるのですが、歌詞の内容を示したものは少なく、第1部だけは何とか見つけましたが、それでは全体像がつかめませんので、あえてここでは紹介しません。それよりも、このソクラテスという作品、ソクラテスの著作から引用しているのではなく、むしろ引用しているのはプラトンなのです。

エリック・サティ
交響的劇作品 「ソクラテス
ソクラテスの肖像》
《イリソス河の岸辺》
ソクラテスの死》
http://www2s.biglobe.ne.jp/~kurakura/mos-renka/song-5.htm

第1部の「ソクラテスの肖像」は「饗宴」から、第2部の「イリソス河の岸辺」は「パイドロス」から、そして第3部である「ソクラテスの死」は「パイドン」そのものを引用しているのです。

饗宴
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A5%97%E5%AE%B4

パイドロス
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%B9

パイドン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%B3

この3つの著作はいづれも対話集となっており、ある意味演劇に近いものを持っています。ですので、この作品は「交響劇」とも呼ばれます。

私が聴いているのは、ソリスト4人によるものです。それは楽譜に忠実であると言えます。それゆえに日本ではなかなか演奏機会がないようですが、この作品はもともとはピアノ演奏だったようで、その形であれば何とかできるかも・・・・・・とは思いますが、それでも演奏機会は少ないようです。

CD自体も少なく、私もこの作品が収録されているのを、何度探したことでしょう。ようやく見つけたのが、ディスクユニオン吉祥寺クラシック館だった、というわけです。つまりは中古。

新譜が少ない・・・・・それも、この作品が希少性を持つのでしょうし、おそらく中古市場に出回らないのは、やはり歌詞がなかなか手に入らないという事で、購入した人が国内盤を持っている場合、歌詞が付いているという点で手放さないのでしょう。このCDは輸入盤でかつ歌詞が付いていません。それはおそらく、海外ではこの作品を聴く人であれば、プラトンの著作を当たるか、知っているひとであるという事なのだろうと思います。

さて、ウィキの記述では何のことやらさっぱりわからないという人も多いでしょう。ですので、解説したサイトもご紹介しておきます。それを読めば、この「ソクラテス」という作品がどんな意味を持つのかが、ぼんやりとでもわかってくるかと思います。

プラトン『饗宴』を解読する
https://www.philosophyguides.org/decoding/decoding-of-platon-symposion/

プラトンパイドロス』を解読する
https://www.philosophyguides.org/decoding/decoding-of-platon-phaedrus/

プラトンパイドン』を解読する
https://www.philosophyguides.org/decoding/decoding-of-platon-phaidon/

古代ギリシア哲学と現代倫理学のページ
哲学講義18 - プラトン(6) 霊魂不滅の証明・ソクラテスの死 -
http://matsuura05.exblog.jp/298487/

パイドンについては、他の論説も取り上げました。なぜなら、この作品ではソクラテスの死が、取り上げられているからです。その点についての言及が甘いと思い、他のブログも取り上げたのです。特に後半には、おそらくか始祖のものであろうという部分が掲載されているので、作品への理解が深まるのではないかと思い、採用しました。

こうして見て来ると、この作品そのものが、まずはプラトンの著作を借りる形で、ソクラテスの哲学を紹介しながら、ソクラテスの死を扱っているということに気が付くと思います。

ソクラテスの哲学のコアな部分は「エロース」です。それをプラトンは否定しているという言説もありますが、実際にはそうではないなあと思います。

実はこの作品を知ったきっかけは、FBにおける哲学論議プラトンはエロースを否定するというもの)でした。私としてもエロースの考え方は素晴らしいと思っているのですが、時としてそれは暴走することもあり、それをいかにコントロールして、生活を生き生きとしたものにするのかが大切だと、この数年で思い知ったのですが、その点をプラトンの著作はクリアにしてくれているように思います。

サティがソクラテスを作曲するにあたって、プラトンの著作に当たったのは、ソクラテス自身が著作をのこしていないという点もあるでしょうし、プラトンが決してソクラテス批判ではなく、むしろ擁護し自分の「イデア論」はそこから出発していると認識している故であると分かっていたからでしょう。

プラトンは「エロース」を否定しているのではなく、むしろ肯定しているように私には思えます。ただ、どちらが優位なのかで意見が異なるのでしょうが、重要な点が含まれています。「パイドン」において、プラトンははっきりと、肉体は魂に支配されているとはっきりとソクラテスが述べたとしている点です。

音楽とは、肉体よりも人間の魂に訴えるものです。恐らく、私達が演奏に感動するのも、自らの魂が演奏によって打ち震えた故であることが殆どでしょう。となると、プラトンがエロースを否定しているとは、到底思えないのです。そのエロースの重要性を説明するためにプラトンが至ったのが「イデア」であると考えるほうがいいのでは?と思います。

本来、魂とは見えないものです。それをあえて可視化するとすれば、幾何学的な美しさであると規定したのがプラトン哲学であり、実際はソクラテスはそこまでは言及していません。ですから、エロースが幾何学であるはずはないんですが、「美」というものはいかなるものなのかを説明するときに、わかりやすい比喩として幾何学(完全を意味もします)を使ったのだろうと考えれば、プラトンがなぜソクラテスの言説を使っているのかは、理解できるでしょう。

つまり、サティは、エロースを「イデア的に表現したい」としてこの作品を作曲した、と考えるのが自然だと思います。実際、音楽そのものは言説部分は生き生きとしていて、対話の様子が表現されていますが、その結果としてのソクラテスの死が、オケの静かな演奏という面で用意されている・・・・・それが実に明確になっていると思います。

演奏も声高に何かを演説するようなものではなく、むしろ淡々としているような印象すらありますが、実際にはソリストはのびのびと歌っており、決しておどおどしているようではありません。しかし、全体としては淡々と進んでいき、最後は死に至りますが、それすら淡々としています。それは作品そのものが死を表現したいのでもなく、ソクラテスの「霊魂不滅の証明」を音楽として描くことを目的とした作品であることを、演奏者達が充分に理解しているから故だと思います。

ソクラテス以外の作品では、サティの他の作品にも見られるような諧謔的な部分がありますが、ソクラテスには微塵もありません。その部分の表現力といい、理解度といい、素晴らしい演奏だと思います。

あまりにもソクラテスの哲学(フィロソフィ)だけにフォーカスした演奏論もありますが、それはサティが作曲した意図を見間違えているように思えるのです。「ソクラテス」が作曲されたのは1920年。サティ晩年なのです。第一次世界大戦という悲劇を経験した故の、サティの死生観すら内に秘めているような気がするのです。私の作品はきっとこれから普遍性を持ち、人々の魂に訴えていくだろう、という・・・・・

実際、サティの作品は現代において数多く演奏されるようになってきていますし、実際サティの音楽をきっかけに、ドビュッシーラヴェルによって、新たな地平が切り開かれ、音楽の新しい世界が広がっていくのですから。




聴いているCD
エリック・サティ作曲
パレード
組み合わされた3つの小品
喜歌劇『メデューサの罠』序曲
干からびた胎児(フリードリヒ・ツェルハ編曲)
操り人形は踊っている
風変わりな美女
ソクラテス
マリー・テレーゼ・エスクリバーノ(ソクラテス
ミシェル・ベダルド(パイドロス
飯山恵美子(アルキピアデス)
ゲルリンデ・ローレンス(パイドン
ルイス・デ・フロメント指揮
ルクセンブルク放送管弦楽団
フリードリヒ・ツェルハ指揮
アンサンブル「順番」
(CDX 5107)

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




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