今月のお買いもの、4枚目はナクソスの「日本作曲家撰集」シリーズのひとつである、伊福部昭の作品を集めたアルバムをご紹介します。ドミトリ・ヤブロンスキー指揮ロシア・フィルハーモニー管弦楽団の演奏です。
伊福部昭の作品に関しては、このブログでは3度ご紹介しています。
マイ・コレクション:日本管弦楽名曲集
http://yaplog.jp/yk6974/archive/898
コンサート雑感:オーケストラ・ダスビダーニャ第19回定期演奏会を聴いて
http://yaplog.jp/yk6974/archive/930
今月のお買いもの:オーケストラ・ダズビダーニャ第19回定期演奏会
http://yaplog.jp/yk6974/archive/1129
その時も、伊福部の音楽をご紹介するときにはいつも、「ゴジラの音楽で有名な」という訳なのですが、実はこのアルバム、実に「ゴジラ」なんです。
いや、「ゴジラ」のサウンドトラックの「本質」を教えてくれる、というべきかと思います。
ウィキには、以下のように説明があります。
伊福部昭
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%8A%E7%A6%8F%E9%83%A8%E6%98%AD
以前にも述べていますが、伊福部昭はまさしく「チェレプニン派」であるわけで、だからこそ当時の前衛音楽には簡単に乗らなかった人です。日本のと言うか、土着の音楽から積み上げて仕上げていくような作品を多く世に送り出しました。
その代表的な作品が、このアルバムでは紹介されています。
第1曲目の「シンフォニア・タプカーラ」はまさしく、そんな作品だといえましょう。北方アジア的な雰囲気を持つ旋律や和音を使うことで、アイヌが持つ精神世界をえがいた作品です。
シンフォニア・タプカーラ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%BF%E3%83%97%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%A9
ウィキの備考に、この作品が緊急地震速報の音楽のもととなったとの記述がありますが、実はその点がこのCDを購入する一つのきっかけになっています。この作品が緊急地震速報のもととなったのは何かの縁なのかもしれません。
そもそも、伊福部は都会というか、文明に対して斜に構えるように思うのです。伊福部の音楽の特徴は様々ありますが、決して日本的という矮小なものに留まらないという、ある意味「汎アジア」という視点に立ったうえで、土着の音楽を生かしていくという点こそ、旋律や和音の点から言えば特徴であろうと思います。
その上で、構成的な美的感覚も持っています。それが次の作品である「ピアノと管弦楽のための《リトミカ・オスティナータ》」です。ソナタ形式を嫌った伊福部も、ABA形式は採用したのがこの作品で、だからこそ「オスティナータ(繰り返し)」という題名が付いているわけです。勿論、その「繰り返し」も伊福部の作品では特徴なのですが、6和音を採用することで様々な音楽を内包することに成功し、極めて日本的でありながら、「汎アジア」的な性質も併せ持つという音楽に仕上がっています。
ピアノと管絃楽のための「リトミカ・オスティナータ」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%81%A8%E7%AE%A1%E7%B5%83%E6%A5%BD%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E3%80%8C%E3%83%AA%E3%83%88%E3%83%9F%E3%82%AB%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%80%8D
最後が「交響的幻想曲第1番」ですが、この作品は伊福部の怪獣シリーズ映画(特に中心はゴジラ)のサウンドトラックを、一つの幻想曲としてまとめたものです。ですので、冒頭にはまさしくゴジラのテーマ曲が流れてきますが、単なる寄せ集めになっておらず、きちんと一つの作品としてまとまっている点にこそ、この作品の伊福部らしさが見えるのです。
この最後の作品を聴いて、もう一度全曲を聴いてみると、不思議なことに、ゴジラの旋律やリズムがそこかしこにちりばめられていることが分かるのです。シンフォニア・タプカーラにも、そして「リトミカ・オスティナータ」にも。
ゴジラという映画がどんなものであったか、ネットの情報ですがおさらいしておきましょう。
ゴジラ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%82%B8%E3%83%A9
映画製作当時、原子力というのは世界文明の行き着く先と思われていました。大量の電力を簡単に作り出せる一方、当時の冷戦という状況と、唯一の被爆国であったという我が国の特徴とが、一方で人類を破滅させるに十分である状況をも作り出すものであるという認識が多くありました。それは伊福部の、文明に対して斜に構えるという姿勢と一致するものでした。ゴジラのテーマ音楽は、そういった伊福部の作品に一貫する、土着音楽への憧憬といったものに立脚しています。
だから当然ですが、他の作品にも完全に同じ形では出て来ませんが、似た形でそれこそ「オスティナート」されるわけなのです。これこそ、伊福部芸術の特徴とも言えるでしょう。
私たち日本人はとても幸せな民族だと思います。怪獣映画という娯楽作品に、とても芸術性の高い音楽が使われる国に生まれたのですから。
「アナと雪の女王」がヒットを飛ばしていますが、こういった足元の作品を見直してみるのも、いいのではないかと思います。「アナと雪の女王」の公開年である今年は、伊福部生誕100年。
私自身も、伊福部芸術に触れて、いろいろ考えてみたいと思います。
さて、演奏に参りましょう。日本のオケではないことにお気づきでしょうか?ロシアの指揮者とピアニスト、そしてオケです。でも、日本的というか、汎アジアという音楽的特徴がしっかりと浮かび上がり、伊福部の作品が世界に十分通用するということが証明されているように思います。
特に、第2曲目の「リトミカ・オスティナータ」は、その形式上の美というものがしっかりと浮かび上がっているように思います。日本のオケではないだけに、少し引いて、つまり冷静に作品と向き合えることができた結果だと思います。
こういう点に気付けることもあり、日本人作曲家の作品はどんどん海外オケで演奏されるべきだと思います。勿論、日本のオケにも積極的に取り上げてほしいのですが、日本のオケでは祖国の作曲家であるからこそ熱くなりすぎて見落としてしまう点を、海外オケに教えてもらうことも、作品を理解するうえでとても重要なことだと思うからです。
これらの作品はすでに国内盤で日本のオケによって演奏がCD化されていますが、それとは違った視点を私たちに与えてくれることが、ナクソスのこのシリーズ、特に海外オケによる演奏の素晴らしい点なのです。
聴いているCD
伊福部昭作曲
シンフォニア・タプカーラ(1979年改訂版)
ピアノと管弦楽のための「リトミカ・オスティナータ」
交響的幻想曲第1番
エカテリーナ・サランツェヴァ(ピアノ)
ドミトリ・ヤブロンスキー指揮
ロシア・フィルハーモニー管弦楽団
(Naxos 8.557587J)
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