神奈川県立図書館所蔵CDのグルダベートーヴェンピアノソナタ全集の今回は第4回目です。
第4集は、第11番から第14番までが収録されていますが、この第4集も第3集同様の演奏が出てきます。一番分かりやすいのが、第11番と第14番「月光」だと思います。
第11番は第1楽章で弾きにくい旋律がありまして、実はすでに持っている山根弥生子さんも苦労しています。グルダもじつはそこで弾きにくいと思っているのが手に取るようにわかります。ある程度「ごまかして」いますが・・・・・
グルダ特有の、明るい部分での速めのテンポで攻めていきますが、やはり指が追いついて行かないのがすぐわかるのです。素晴らしいのは、それでいて音楽がきちんと流れていることです。つまりグルダはここで、音楽全体の流れを重視して弾いているということになります。
指がついて行かないのはその第1楽章第1主題の一部だけでして、あとは一音一音がはっきりと聞き取れる、グルダの素晴らしい演奏に戻っています。
その快速も、第14番「月光」で一転します。今までの快速天衣無縫グルダが、ゆったりとしたテンポと変わります。それが第14番第1楽章に、静謐で幻想的で、かつ透明な美しさを与えています。
さらに、第12番では変奏曲でもテンポを幾分落とし、小節の最後をさらにゆっくりと弾くことで、とても表情豊かな音楽を紡ぎ出しています。
このことからも、わたしはグルダのベートーヴェンに対する尊敬が見て取れるように思います。ベートーヴェンと言えばピアノソナタを芸術の高みへと昇らせた一人ですし、また変奏曲をあらゆるジャンルで使っている作曲家とも言えるでしょう。その特徴が表れている部分では、決して急いで弾いていないのです。
勿論、急がないこともないですが、少なくとも簡単に通り過ぎるということはしません。この二つのテンポのコントラストが、この第4集における最大の演奏面での特徴と言えるでしょう。
それにしても、なぜこの第4集で変わってきたのでしょう?それを想像するには、他のあらゆる全集での他の演奏家のアプローチを思い出してみる必要がありそうです。例えば、モーツァルトの弦楽四重奏曲や、ショパンのピアノ作品全集。同じベートーヴェンの弦楽三重奏曲やピアノ三重奏曲など・・・・・
それらを思い出し、その上でこのグルダの演奏と比較してみた時、導き出される結論は、グルダもこの全集では、ベートーヴェンのピアノソナタの変遷を考えて弾いているということになろうかと思います。そんなことはない!という人もおられるかと思いますが、今一度この演奏を聴いてみてほしいと思います。この第4集で明らかにグルダの演奏は変化が起きています。
第12番では、途中に葬送行進曲がありますが、この葬送行進曲のなんとゆっくりで、まるでそこに葬送があるかのような、テンポとそして表情は絶妙です。その後の再びの快速テンポ・・・・・
テンポとタッチだけなのに、とてもドラマティックな世界が呈示されています。グルダは確かに変人ですが、わたしはそれゆえに、グルダの心の中にはあるある種のドグマがあり、そのドグマがこの第4集に収録されている作品を弾くと表に出ざるを得ないのではないかと、この演奏からは感じるのです。そして、ベートーヴェンのピアノソナタはそれだけのものを持っている作品なのだよと、教えらているような感じがします。
聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
ピアノソナタ第11番ロ長調作品22
ピアノソナタ第12番変イ長調作品26
ピアノソナタ第13番変ホ長調作品27-1
ピアノソナタ第14番嬰ハ短調作品27-2「月光」
フリードリッヒ・グルダ(ピアノ)
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