かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:クラリネットの魅力シリーズ1を聴いて

コンサート雑感、今回は9月22日に行われた、白川毅夫氏のクラリネット・デュオリサイタルを取り上げます。

白川氏とは十年来のお付き合いになりますが、近年は仕事の都合上なかなか聴きに行けないアーティストの一人です。ようやく日程的にあうようになったため、本当に久しぶりに出かけることにしました。

場所は大泉学園にある、ゆめりあホール。小さいながらも気持ちのいいホールで、私の近所ではフィリア・ホールに匹敵する音響と言っていいでしょう。

前半は、主にフランスものが中心で、まずは日本人の田中カレンさん作曲のAlways in my heart。作曲者の亡き母を偲んで作曲されたこの作品は、そのせいか当日の白川氏にとっては震災とオーヴァーラップする部分があったのでしょう、白川氏特有の「体を動かしながらもしっかりとしたなかなかに伸びのある音色」というものが影を潜めてしまったような気がしました。音楽そのものには、作曲者の母への楽しかった思い出や、まだ見ぬ恋人への憧憬というものがしっかりと表現されていますが、それが表に出にくかったのが残念です。

次にドビュッシーの第一狂詩曲です。1910年にコンクールのために作曲されたクラリネットのための作品で、まさしく白川氏の真骨頂か?と思いきや、これもなかなか乗り切れません。後から尋ねてみたところ、ホールの音響のせいもあったそうです。

実はこの二つの作品では、ピアノもキンキンなっていまして、本来ピアニストの川辺女史も白川氏も、やわらかいタッチが持ち味で、その上に力強い演奏をされるのですが、それが力強い点だけが目立ってしまっていました。やわらかい部分がなぜか静謐さに代わってしまっていて、それがこの二つの作品の本来持つ魅力なのだろうかと思ってしまいました。

もちろん、田中さんの作品には静謐さもありますが、なんだかそこで上手くいかなかったことを引きずっているなという気がしました。こんなことは私も幾度か聴きに行かせていただいていますが初めてでした。

後からのコメントをきく限り、白川氏にとっても、パートナーの川辺女史にとっても、震災が心に重くのしかかっているのだなと痛感しました。

そういえば、都内はあの3月11日当日、震度6弱だった地域もあると聞き及んでいますし、実際横浜市内も中区役所周辺は震度6弱であったと後に訂正が入りました。そういうことをかんがえますと、白川氏も私も、ともに軽微だったけれど被災地にいるのだという意識を持たざるを得ない演奏でもありました。

それはプーランクでも一緒でして、ソナタは当然ピアノとクラリネットの競演(ピアノ・ソナタだけいわゆる「無伴奏」として発達しましたが、ふつう「ソナタ」と呼ばれる作品はピアノを伴います)なのですが、それもピアノはキンキンなってしまっていますし、クラリネットもそれを受けてか、いまいち乗り切れない感じです。プーランク独特のふんわりとした音色は出ているんですが、本来それであれば乗ってくる白川氏のクラリネットが乗ってきません。

重いな〜と感じていました。ここまで重いと感じたのは白川氏のリサイタルでは初めてでした。

後半は打って変わってノリノリとなります。それを開始前感じさせたのが、舞台そででの調整の音でした。これは本人も感じていたんだな〜と思いました。それをまずエリザベート王女のロマンツェで修正してみせて証明してくれました。エリザベート王女は東ドイツザクセン地方マイニンゲンのH.ゲオルク二世の娘で、音楽の才能あふれる女性でした。この作品はマックス・レーガ―の勧めで世に出ますが、いったん王女は「こんなアマチュアの作品など・・・・・」と謙遜して拒否されたのですが、結局世に出ることとなりました。その作品はドイツ的な重厚さの中に温かみを湛えるものとなっていまして、まさしく白川氏が得意とする音楽でもあります。

ブラームスにも影響を与えたこの作品ですが、白川氏はそのブラームスの作品も数多くリサイタルで取り上げています。そしてそのブラームスが最後に来ました。ソナタ変ホ長調作品120-2です。

実はこのエリザベート王女とブラームスが並んでいるのは偶然ではありません。エリザベート王女が作曲したロマンツェを初演したのがR.ミュールフェルト。そして、晩年創作意欲が落ちていたブラームスにこのソナタを書かせるきっかけを作ったのが、そのミュールフェルトの演奏だったのです。白川氏は当然、そのテクストで並べています。

ブラームスのこの作品は所謂初期の重々しさから抜け出し、自分自身の色というものを確立した後の作品です。それゆえ、明るくものびやかな作品です。それをしっかりと伝えてくださりました。この後半になって、クラリネット、ピアノともにタッチが柔らかくなり、のびやかで力強い演奏が戻っていました。

これこそ、白川氏本来の演奏だなあと聴き入っていました。

ホールもとても聴いていて気持ちのいいホールでしたが、演奏者としては響きすぎたのかもしれません。前半はそれを修正するので精一杯だったのかもしれません。シリーズにされるということなので、できれば次回も聞きに行けたらと思っています。その時には必ず、冒頭から素晴らしい演奏が聴けるものと期待しています。




聴きに行ったコンサート
クラリネットの魅力 シリーズ1
Piano Duoの愉しみ
田中カレン
Always in my heart
クロード・ドビュッシー作曲
第一狂詩曲
フランシス・プーランク作曲
クラリネットソナタ
M.エリザベート王女作曲
ロマンツェ
ヨハネス・ブラームス作曲
クラリネットソナタ変ホ長調作品120-2
白川毅夫(クラリネット
川辺千香子(ピアノ)
2011年9月22日、東京都練馬区大泉学園ゆめりあホール



このブログは「にほんブログ村」に参加しています。

にほんブログ村 クラシックブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ 合唱・コーラスへ
にほんブログ村

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。