コンサート雑感、今回は令和7(2025)年9月20日に聴きに行きました、アンサンブル・ジュピターさんの第21回定期演奏会のレビューです。
アンサンブル・ジュピターさんは東京のアマチュアオーケストラです。早稲田大学フィルハーモニー管弦楽団の卒業メンバーが設立した団体です。
以前より何度か足を運んでいる団体ですが、もうその実力はセミプロと言っても過言ではないレベルです。今年もスプリングコンサートに足を運んでいますし、前回の第20回はベートーヴェンの第九だったこともあり、それも足を運んでいます。いずれも素晴らしいパフォーマンスを聴かせていただいたため、今回も足を運んだ次第です。私自身は中央大学出身ですが、実は卒業サークルは早稲田大学とも親交があるので、早稲田大学にはシンパシーを持っています。
今回の曲目は以下の通りです。アンコールはありませんでした。
オール・ブルックナー・プログラム
①ブルックナー 弦楽のためのアダージョ
②ブルックナー 交響曲第5番
と言うか、このプログラムだとアンコールは要らないかと・・・
①ブルックナー 弦楽のためのアダージョ
ブルックナーは交響曲が多く室内楽はあまり作曲していないのですが、特に有名な室内楽曲が弦楽五重奏曲ヘ長調WAB112です。実はこの弦楽五重奏曲の第3楽章アダージョは、ブルックナー自身が管弦楽版へ編曲をしています。通常はその版もコンサートピースとして扱われ、「弦楽五重奏曲(管弦楽版)」とクレジットされることが殆どです。
さて、弦楽五重奏曲には二つの編成があります。
1.第1ヴァイオリン・第2ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバス
2.第1ヴァイオリン・第2ヴァイオリン・第1ヴィオラ・第2ヴィオラ・チェロ
ブルックナーの弦楽五重奏曲は、2.を採用しています。なので本来は管弦楽版でもコントラバスは入らないはずなのですが、今回、編成にはコントラバスが入っています。つまりブルックナーの本来の編成とは異なるのです。実は今回、指揮者であり音楽監督で、ご自身も団員と同じく早稲田大学フィルハーモニー管弦楽団の卒業生である安藤亮さんがコントラバスを入れた編成に編曲しなおしています。それを今回「弦楽のためのアダージョ」として演奏されました。
私はオリジナルの弦楽五重奏曲も、管弦楽版も聴いたことがありますが、それでも重厚かつ美しい作品で好きなのですが、コントラバスが入るとさらに重厚さが増し、深みが増して聴こえてきました。そしてもちろん、レベルの高いアンサンブル・ジュピターさんの演奏。やせた弦の音など全く聴こえてこず、力強さの中に繊細さも同居する素晴らしい演奏です。
もしかするとですが、安藤氏は、コントラバスも入れたほうがよりよいのでは?と思ったのではと想像します。ブックレットには「団員一人一人の個性を思い描きながら」とありますが、それはもしかすると、編成としてコントラバスを入れたほうが、ブルックナー先生、良かったのでは?という批判精神から来ているのではと思います。早稲田と言えば実はクラシックの評論でも幾人かを排出している大学なので、安藤氏もその人たちにもまれたのではないかなあと思います。それが今回の再編曲に繋がり、いい方向に行ったように思われます。こういうこともまた、アマチュアを聴く醍醐味です。
②ブルックナー 交響曲第5番
ブルックナーの交響曲第5番は、1875~1879年にかけて作曲された作品です。ちょうど時代的には弦楽五重奏曲と重なっており、今回は意識してアンサンブル・ジュピターさんはプログラムに入れてきたと言えます。なお、この第5番はブルックナー自身による別の版が存在せず、後世の校訂者による版のみとなっています。それだけ、ブルックナーのオリジナリティがよく残っている作品だと言えます。
オーケストラが取り上げる範囲としてはウィーン古典派だと、アンサンブル・ジュピターさんのウェブサイトには記載がありますが、それならブルックナーは範疇の外だと思ってしまいます。しかし実際にはブルックナーの音楽は保守的であり、ウィーン古典派からの伝統の範疇に入ると言えます。私の中ではブルックナーは後期ロマン派の最後の作曲家という位置づけなので、特に違和感はないです。それに比べればマーラーは同じく後期ロマン派とはいえかなり革新的ですから・・・
なので、アンサンブル・ジュピターさんの中では全く問題がないのではないでしょうか。そのリスペクトが演奏を貫いていました。宗教的なエッセンスが散りばめられているとはいえ、どこかデモーニッシュな音楽が繰り広げられるのが第5番ですが、ブルックナー終止も随所に多用され、どことなくオルガンの響きを感じる作品です。その魂を、安藤氏はまさにゆったりとしたテンポを採用することで際立たせていました。
同時に、リズムも意識した演奏にははっきりと生命力を感じます。人間の魂が何か「いと高きもの」を望む、或いは祈っているように聴こえてくるのです。
演奏時間は優に80分を超えますが、それが全く飽きることなく圧倒言う間に過ぎ去っていきます。私が年齢を重ねたということもあるとは思いますが、ブルックナーの交響曲となるとプロでも単にゆったりと悠然と演奏するというものも散見されますが、今回のアンサンブル・ジュピターさんの演奏は生き生きとしているのです。ゆえに飽きることが全くなく音楽に没頭していきます。途中美しすぎて寝墜ちそうになりますが、それでも耳だけははっきりと音楽を聴いています。それだけアンサンブル・ジュピターさんの演奏は「惹きつける魅力」にあふれたものでした。
で、チケット代は1000円・・・プロの演奏でああだこうだ、高い金払っているんだからという声をSNSでもよく目にしますが、ならばアマチュアのコンサートに足を運ばれたらいかがでしょう。特にこのアンサンブル・ジュピターさんはおすすめです。レベルも高いですし私は満足しなかった演奏会は一度もありません。今回も高いレベルで酔いしれていました。それを1000円という超バジェットプライスで経験できるのですから・・・仮にあまりよくなくても、1000円なら何とか気持ちの整理もつけることが出来ましょう。ですがそんな経験をすることはアンサンブル・ジュピターさんならまず皆無です。
彼等も働きながら練習して研鑽を積んだうえで本番に臨んでいるはずです。我が母校日大三高野球部元監督の小倉全由(おぐらまさよし)氏の座右の銘は「練習は嘘をつかない」です。ゆえに2度、日大三高は夏の甲子園で小倉監督の下で優勝を遂げています。アンサンブル・ジュピターさんもおそらく同じように練習をしっかり遣ったうえで本番に臨んでいるはずです。私自身も元合唱団員で、本番でしっかりとしたパフォーマンスを出すには練習をしっかり遣らないとダメなのは体でわかっている人間です(そもそも、音楽監督だった故守谷弘も合唱指揮の遠藤正之氏も小倉監督と同じ言葉を発していた人でした)。それが高いレベルのパフォーマンスにつながっていることはほぼ間違いないと思います。安藤氏もまた同じように、練習を大事にされている方なのではないでしょうか。ですが働きながら練習を確保するということがどれほど大変なことか・・・そのうえでのハイパフォーマンスですから。
その点では、また次回も楽しみです。なんと次回はニューイヤーコンサートだそうで、モーツァルトの「ジュピター」を演奏するとのこと。ジュピターさんがジュピターを演奏するという、まさに正月に相応しい夢のような内容。さらにスプリングコンサートではブラームスのヴァイオリン協奏曲をジェラール・ブーレをソリストに向かえて演奏!どちらも杉並公会堂ということで、ワクワクが止まりません!
聴いて来たコンサート
アンサンブル・ジュピター第21回定期演奏会
アントン・ブルックナー作曲
弦楽のためのアダージョ 弦楽五重奏曲ヘ長調WAB112第3楽章安藤亮編曲管弦楽版
交響曲第5番変ロ長調WAB105
安藤亮指揮
アンサンブル・ジュピター
令和7(2025)年9月20日、東京、杉並、杉並公会堂大ホール
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